センチメンタル



「まーた出陣か。」
 やれやれと言った風情で薬研が自分の肩を揉む。広間には先刻遠征から戻った連中が集って、疲れを癒すため思い思いに休息を取り始めたばかりだった。主からの命を持って現れた俺に、彼らの視線は一様に厳しい。
「長谷部の旦那。大将はどうしちまったんだ? ここのところ、連戦に次ぐ連戦じゃないか。」
「そうだよー。僕たち、頑張ってるけどさ、ちょっとは休ませてくれてもいいんじゃない?」
 乱の言葉に、何人かが頷いた。俺は手元の帳面に目を落とし、次の出撃部隊の人員を再確認する。それは遠征から戻った蜂須賀隊の報告を元に、主が手ずから組み直された編成だった。第一部隊は俺を筆頭に太刀と打刀を阿津賀志山へ。その他の者は第二、第三部隊を編成の上、遠征へ出すようにとの内容である。第四部隊は大太刀を中心とした部隊だが、これはまだ遠征中で本丸を空けている。留守居の内番組を合わせれば、多くの者がその身に任を負うことが明白だった。しかし、それは重要なことではない。
「疲労の著しいものは休息を取るようにとの主に指示だ。編成からは中傷以上の者と重度の疲労状態の者は外されている。何か問題があるか。」
 あろうはずがない。不満があれど、軽傷程度であれば傷を負ってでも俺たちは戦うことが不可能でない。人の身を真似たところで、その本質は鉄の塊なのだから。押し黙った者たちを見回し、出立は一刻の後、とだけ告げて俺は広間を後にする。他の場所で寛いでいる連中に、主の命を伝える必要があるからだ。閉めた襖の向こうで、憤懣が爆発しているであろうことを予想しながら、俺は次の場所に向かった。
 行く先々で出陣の命を伝えると、素直に頷く刀剣はごくわずかだった。誰もが少なくはない疲労をかかえ、傷を負っている者もいる。中傷以上の者は順次手入れ部屋へ押し込まれているが、度重なる戦で手伝い札は残り少なく、実直に治癒の時間を待たねばならない。数に限りのある手入れ部屋が溢れるのは必然で、傷を負った者の多くは、痛みを堪えながら待ち部屋に寝かされている。この状態は間違っている。誰もがそう思っているのに、それを口に出すことはない。そう。この本丸に、もう主を諌める者はなかった。あの男がいなくなった今では。
「主、俺です。入ります。」
 しばらく返事を待ってみても、返ってくる言葉がない。以前の俺なら、主は不在かと首を傾げていただろう。今の俺は、もう一度だけ声をかけて、返事を待たずに執務室へ入る。案の定文机に向かっていた主が、俺をちらりと見てまた手元に視線を戻した。何をそれほど働く必要があるのかと、皆が怪訝に思うほど主は執務室に籠り続けていた。
「出陣の命を伝えてきました。あと半刻もすれば出立可能です。」
「…そう。私はここで仕事をするから、見送りには立ちません。」
「承知しました。…しかし、主。差し出がましいですが、少し休まれては。」
「…長谷部。差し出がましいと分かっているなら、言わなくてもいいでしょう?」
 冷たい。
 冷え切った視線が注がれる。どっと背筋に嫌な汗が浮いて、思わず俺は顔を伏せた。申し訳ありません。蚊の鳴くような声を絞り出すと、主の視線が逸れたのが分かった。拒絶するように向けられた背中は、俺がどれほど望んでも、おそらく二度と振り向かない。出陣の仕度があるからと、その場を辞せることだけが救いだった。否、それすらも罰なのだろう。近侍でありながら、そばに侍ることすら許されない。見えない傷は主にだけつけられたわけではなかった。俺も、他の刀剣たちも、身のうちに癒えない傷を抱えている。もう二月にもなるというのに、いまだ誰もその名を口にしない。
 燭台切。
 今はいないその男の名前を、腹の中でだけ繰り返す。
 梅雨に入って間なしの頃だった。眩しいほどに晴れたその日の朝、燭台切が五月晴れだと言っていたのを覚えている。天気がいいと気持ちいいよね。呑気な台詞ばかりが思い出されるのは、あの男がそれだけ穏やかな日を過ごしていたからだろうか。あの日も近侍は俺だった。今のようにずっと固定されたものではなく、主の気分やその時の都合でころころと近侍につく刀剣は変わっていた。
――今日は長谷部くんが隊長か。よろしくね。
 これから戦だというのに、遊びに行くような気安さで燭台切は言った。俺も何か軽口を叩いただろうが、何を言ったか思い出せない。出かける前は、確かに心安かった。いつも通りの戦ならば、ささやかな土産と共に、戦果をあげて主へ報告を済ませる。それだけのはずだった。何度も訪れた場所だった。持ち帰れば主が喜ぶ玉鋼が手に入りやすいからと、満場一致で向かったのは墨俣だった。適度に切り上げて帰ればいい。そう考えていた俺たちの甘さをあざ笑うかのように、検非違使が現れたのは、兵装が半ば剥げかけ、そろそろ本丸へ戻ろうかという頃だった。
――長谷部くんっ! 駄目だ、少し下がって…!
 振り向いた時には燭台切の胸から敵の刃先が突き出していた。怒号も剣戟も全ての音が耳から消えて、真っ白な視界に燭台切の赤だけがちらつく。崩れ落ちていく燭台切のその向こう。俺が相手の首を刎ねるまでの一瞬に、俺を庇った男の血が噴き出すように俺の全身を濡らした。雨のように温かな血潮が降り注ぐ。その後のことを、俺はあまり覚えていない。最後の敵を斬り伏せたのは俺か、それとも他の誰かだったのか。静まり返った血だまりの中に、燭台切が倒れていた。事切れた躯はすでに人の形ではなく、折れた刀が一振落ちているだけだった。最後の言葉も覚えていない。倒れる間際に笑ったような気もしたが、それは俺が見た幻だったのか。泥に汚れた丁子乱れの刃を拾いながら、俺は主に何と報告しようか、それだけを考えていた。
 一振を欠いて本丸に戻った後のことを、詳しく思い出すことはしない。ただ、主にとって、燭台切光忠という存在が、俺が思うより遥かに重要な存在であったと思い知らされただけだった。昼夜を問わず、主は泣くことも忘れて折れた刀を抱き続けた。その身が切れて血が流れても、主から燭台切の亡骸を引き離すことはできなかった。ようやく主が涙を流し始めた頃には、衰弱した体は床から起き上がれず、短刀たちがやっとの思いで介抱していたという。聞いた話でしかないのは、俺が主の前に姿を見せることを許されなかったからだ。
 恋仲だったのだと、後で誰からか聞かされた。燭台切が刀剣の本分を超えて主に近づいていたと言われるのは複雑だったが、主の嘆きようには合点がいった。何かが腹の底にすとんと落ち着いた心持ちだった。そうであるならなおのこと、俺は主の前に姿を現すことはかなわないだろう。二度とこの名は呼ばれもせず、錆びて使い物にならなくなるまで物置にでも放っておかれるのではないか。悪くすれば刀解という二文字も頭に浮かんだが、起きあがれるようになった主はすぐに俺を呼び、暗く沈んだ声で近侍を続けるように、とだけ呟いた。それからずっと、主は他の刀剣に姿を見せず、俺だけを近侍にして部屋に閉じこもっている。それは、どんなに言葉を尽くして詰られるよりも、俺を傷つける刃になった。
 抑揚を欠いた声から笑みは失われ、日ごと病が悪くなるように、主は戦に明け暮れた。眠る間もなく戦績を政府に報告し、与えられた褒賞はすべて資源に転じる。疲れが溜まり始めた他の刀剣たちから、不満の声が上がるのに時間はかからなかった。そのすべてが、主に代わって出陣を命じる俺へと向けられる。これは罰なのだ。俺が償うべき罪悪は、主の嘆きの分だけ大きい。
「それじゃあ、俺たちはこっちだから。」
「ああ。気を付けてな。」
「君もね。」
 蜂須賀にかけられた声で、思考の渦から引っ張り上げられた。本丸を出て最初の岐路で、遠征に向かう連中と行く先を分かつ。第一部隊は阿津賀志山へ向かう。俺の他に宗三左文字、山姥切国広、大倶利伽羅、一期一振、鶯丸の編成だ。大倶利伽羅は軽傷の状態だが、その分足の速い馬と良種の兵装を割り当てられている。いずれも無駄口を叩かない者ばかりで、自然と行軍は静かなものになった。どこで敵に出くわすか分からないのだから、気を抜くわけにはいかないというのに、俺は気が付けばまた燭台切の事を考えてしまう。
「…おい、来るぞ。」
 潜りそうになった思考が、山姥切国広の声で覚醒する。神経にちりちりと触る殺気は紛れもなく敵のもの。比較的索敵に長けた山姥切国広が、敵の様子を探りにその場を離れた。猫のように戻ってきたその口から、陣形は鶴翼だと知れたが、戦力は不明だった。
「気を抜くな。行くぞ。」
 己を奮い立たせるために声を出す。気を散じるな。敵に集中しろ。ここがどこでも、相手が何者であろうとも、無様を晒せばきっと燭台切に笑われる。手にした柄を強く握りしめ、俺たちは敵の眼前に躍り出た。醜悪な瘴気をまき散らし、敵がこちらに牙を剥く。距離が詰まらない内から、敵の攻撃が始まった。石、弓、鉄砲。それらを躱しながら敵に駆け寄る。いくらか傷を受けたとしても、間合いに入ればこちらのものだ。白刃戦で負けはしない。そうだ。決して、もう二度と。
「圧し斬る!」
 終わってみれば呆気ない戦だった。敵は太刀、打刀、短刀の編成で、初期刀で練度の高い山姥切国広が太刀を破壊、続いて俺と一期一振が打刀を制し、それで勝敗が決まった。短刀はリーチの差で打刀に劣る。序盤の戦いならこんなものだろう。部隊に被害はなく、俺たちは行軍を続けることにした。その時だった。
 気が緩んでいたと言えばそれまでだ。唐突な銃撃が大倶利伽羅に命中した。呻き声をあげて大倶利伽羅が膝をつく。当たった場所が悪かったようだ。足から血が流れていた。
「大倶利伽羅!」
「…うるさい、来るぞ。」
 言われなくても分かっている。林の影から現れたのは、禍々しいとしか表現のしようがない、検非違使の連中だった。ぞっとすることに、あの時と同じ隊列だった。槍が三、大太刀、太刀、薙刀。構える間もなく敵の銃兵がまた火を噴いた。何人かに命中する。兵装を崩され、こちらの陣形に乱れが生じた。敵は逆行陣。先程までの戦闘で魚鱗に構えていたのが裏目に出たが、それすら乱れては、不利は必至だった。
「大倶利伽羅は下がれ! 国広と宗三は脇を固めろ! 一体ずつ仕留めるぞ!」
 刀を振りかざしながら叫ぶと、言われるままに仲間の陣形が動いた。力がある分、敵の守りは固い。攻撃されれば、魚鱗の名残でこちらの防御は不利なのだ。少しでも敵戦力を破壊し、受ける傷は少なくしたい。まずは薙刀。狙いを定めて舌打ちをする。前に出た大太刀のせいで、薙刀に刃が届かない。大太刀を斬るしかなかった。
「ふっ!」
 十分な手ごたえにもかかわらず、大太刀は重傷止まりでこちらを睨んでいた。敵の闘志に陰りはない。打ち損じた大太刀に、第二、第三の攻撃が加わり、ようやく相手が沈黙した。その分、薙刀は無傷のままだ。国広が太刀を折ったが、まだ敵は四振残っている。敵が攻撃に移り、槍の攻撃が俺の喉元を狙ってきた。咄嗟にかがんでやり過ごし、踏み込んで敵の足を薙ぎ払う。悲鳴を上げた敵の向こうで、薙刀が振りかぶるのが見えた。
 薙刀の攻撃をやり過ごすことができた者はいなかった。味方全員が大小の傷を負い、大倶利伽羅に至っては、最初の軽傷に加えて鉄砲の傷を受けたためか、すでに重傷の状態だった。さらに敵の大太刀が刃を振りかぶる。向けられた刃の先には、大倶利伽羅がいた。考える間も無かった。
「長谷部!」
 誰の声だっただろうか。右肩から腹にかけて焼けつく痛みを感じながら、俺は左腕を返して逆袈裟に相手の腹を切り裂いた。顎に達した切っ先が、骨を断つ感触がする。仰け反って倒れていく大太刀には見向きもせず視線をめぐらせると、鶯丸の刃が薙刀の腕を斬り落とすところだった。さすが古備前。動きに無駄がない。視界の端で、一期一振と国広が残る槍を刈っていた。よし、これで終いだ。
 考えた途端、眩暈がした。
「長谷部! しっかりしろ!」
 誰かの腕が俺を支えた。意識を失うわけにはいかないというのに、思う間もなく視界が暗くなった。



* * *



――長谷部くん、ちょっといいかな。
 暗闇の中で、燭台切の金の目が光った。俺は弾かれるようにその光に向かって駆け出す。何をしている、燭台切。どうしてこんな場所にいる?
――ねぇ、きみさ、最近ちょっと怠慢じゃない?
 燭台切は俺の問いに答えず、言いたいことだけを一方的に口にした。俺がどれだけ全力で駆けても、開いた距離は縮まらず、燭台切の金の光は同じ場所で瞬きを繰り返す。
――僕、言ったよね? 主をよろしくって。
 なんだと。なんのことだ。
――言ったよ、ちゃんと。聞いてなかったの。
 待て、それはあの時の。
――なのに、きみは主にあんな真似をさせて。
 責めるような口調は、拗ねたようにも聞こえた。それはすぐに諦めの笑みに変わり、切なげに細められた金の目が、寂しそうに瞬いた。
――だってきみにしか頼めないんだ。
 燭台切。
――だからお願いだよ。彼女を守って。僕の代わりに。


 目覚めたそこは、手入れ部屋だった。薄暗い天井に、今が夜だということだけが分かる。静まり返った部屋に、自分の荒い息だけが響いて、不覚にも涙が出そうになった。今の夢はなんだ。何が言いたい、燭台切。汗ばんだ額を拭うついでに、強く目元を擦った。
「…くそ、燭台切…!」
「…長谷部。」
「!」
 誰もいないと思っていた部屋の中で、聞いてはいけない声がした。部屋の隅で、衣擦れの音がする。行燈のわずかな明かりに、白い面が浮かび上がった。
「…主、どうして…。」
「…どうして? それは、私の台詞です。」
 じわりと距離を詰めながら、主が酷く冷めた声で言う。その語尾がわずかに震えていたのは、俺の聞き間違いか。主が布団に手を突いた。長い髪が畳を擦る音がする。
「ねぇ、どうして…?」
「主。」
 主の手が、俺の手に触れた。今が夏であることを忘れるほど、その肌は冷たかった。細い指先が、俺を責めるように強く握られ、同時にぱたりと小さな音がして、主の喉から不規則な呼吸が聞こえた。泣いているのだと気付くのに、数秒。気づいてしまえば、驚くほど胸がざわついた。
「あ、主…。」
「ふたつきも経つのよ…! でも苦しいっ! どうして光忠がいなくなるの!? ねぇ、長谷部! どんなに探しても、どこにも光忠がいないの…っ! どうして帰ってきてくれないの…? どうして光忠だったの…!」
 繰り返される、どうして。いくつもの問いに俺が答えることはできない。あるのは事実だけで、それが胸を切り裂くほどに残酷な現実を突きつける。すべての問いは俺への叱責。どうして俺じゃなかった? どうして燭台切だった? 俺が折れれば良かったのに。何度も自分で考えた。けれど主は言わなかった。どうしてお前が折れなかった、とは一度も言われなかったのだ。いま目の前で、声を嗄らして吐き出される本音に、いつその言葉が混ざるのかと怖かった。そのくせ、早く聞きたいと願う思いも湧きあがる。早く楽にしてください。あなたに捨てられれば、いっそ俺も諦めがつく。なのに。
「ねぇ、長谷部…っ! わたし、こんなに、待ってるの…! 無茶な戦を繰り返せば、光忠が叱ってくれるでしょう? もっと仲間は大事にしようね、なんて、自分は自分を大切にしないくせに…! 一人で先に逝ってしまうくせに…!」
 でも、もう誰も叱ってくれないの。どうして。
 絞り出すような主の声で、目の前を殴られた気がした。頭の中で、燭台切の声がする。
――主にあんな真似をさせて。
 俺は思わず、体を起こそうとして呻いた。包帯のまかれた右肩が、わずかな動きで激しく傷んだのだ。涙に濡れた目で、主が俺を見下ろした。幼子のように泣きじゃくりながら、主の手は縋るように俺の手を掴んだままで。
「主、申し訳ありません。」
 俺は精一杯の力で、主の手を握り返した。燭台切のように、優しくはない俺の手のひら。燭台切のように、主を包むことなどできない。燭台切のように、この方の不安を取り除くことなど、とても。己の事しか見えず、周りを知れず、こんなにも追い詰められた主の、支えになれなかった愚かな自分。俺はずっと、燭台切に憧れていた。無様を晒さず、いつでも泰然と構えるあの男の、恐ろしいほど出来た姿に嫉妬さえした。そのくせ目が離せず、気付けばその背を追いかけてしまったことが悔しい。いつかは俺が超えて見せると、腹の内で勇んでいたことも恥ずかしかった。俺はお前の足元にも及ばない。それでも、まだ燭台切が、俺に託すというのなら。
「どうぞ、叱ってください。あなたを諌めるべきは俺でした。」
「長谷部…っ!」
「ずっと、思っていました。俺に死地へ赴けと言われているのだと。それに巻き込まれる他の者たちの不満すら、すべて俺が受けるべきだと。」
「…なにを、言ってるの…! そんなわけないでしょう!? だって、光忠が守ったのに…! 長谷部を折るなんて、できるわけないじゃない…!」
 そう。そうなのだ。燭台切が愛して、燭台切を愛したこの人が、俺を悪しく言えるはずがない。行き場を失った怒りと悲しみだけを抱えて、膨れ上がった痛みは敵を倒すことにしか換えられなかった。不器用な人。脆く弱く目が離せない。だから燭台切は俺の夢にまで現れた。頼りない後継で済まなかったな。きっと、お前のようには上手くできない。それでも、今からは俺も全力を尽くそう。
「主。俺の怪我が治ったら、みんなに謝りましょう。それから、すこし休みましょうね。」
 手を引いて見上げれば、主の眦から、まだほろほろと大粒の涙が零れ落ちた。苦しくなる。切なくなる。主の想いは、すべて燭台切のものなのだ。それはきっと、これから先も変わらない。少し惜しいと思いながら、変えたくない、と願う俺がいた。あなたの愛は、どうぞ永久にあの男へ捧げてください。俺は俺の全てをあなたに差し上げます。そしたらいつか、あなたから信頼の二文字くらいは頂けるでしょうか。それくらいを奪うのは、きっと燭台切も許すはず。
 いつかまた、夢の中で。
 あの男が笑う日を目指して。