ホワイト



 こそり。暗闇の中で動く。
 それほど夜目が利くわけでもないのに、どうしてそれがさんだと分かるのだろう。
 自分でも分からない。
「なにしてるんですか」
「!」
「そんなところにいたら風邪ひきますよ」
「な、なんで分かったの」
 そんなこと、俺にもわかりません。
 答える代わりに、俺は首に巻きつけていたマフラーを解いた。
 きっと、いらないと言われるのだろうけれど。
「これ使ってください」
「えぇっ!? い、いいよ! 日吉くんが寒いじゃない!」
「そんなやわな鍛え方はしてません。ずっとそこにいたんでしょう。骨まで冷えてるんじゃないですか」
「ほね、」
「いいから、使ってください」
「…ありがとう…」
「いえ」
「…ええと、あの、」
「宍戸さんなら、もうすぐ鳳と出てきますよ」
「!」
 また『どうして』と聞かれる前に、俺は歩き出す。
 「ひ、日吉くん!」
 どうして、なんて。本当は知ってる。
 あなたがこんなに暗くなるまで寒い中待ち続けていた理由も。
 あなたをすぐに見つけられた理由も。全部。
 振り返った先で、白い吐息が暗闇に溶けた。
「これ、ほんとにありがとう。明日絶対返すからね」
「…あげますよ」
「え?」
さんに、あげます」
「えぇっ?」
 今度こそ俺は振り返らずに歩き出す。
 あげますよ。それくらい、いくらでも。
 俺があなたに与えられるのはそんなものしかないから。
 与えていいのはそんなものでしかないから。

 後ろで宍戸さんが、、と呼ぶ声が聞こえた。