恋のワルツ



 お、ええ感じに三拍子やんか!
 いっちにーさんいっちにーさんブンチャッチャッブンチャッチャッ、こ、は、る、こ、は、る。
「好、き、や、好、き、や」
 いっちにーさんいっちにーさん。よし、ステップに合ってきた。
「ユ、ウ、ジ、消、え、ろ」
「なんで俺が消えなあかんねん」
「ぎゃっ!」
ちゃーん、お・は・よ・う」
「あー、小春ちゃん! おはようおはよう! 今日も色っぽいなぁ!」
「ほんま? おおきにー。ちゃん好きやわぁ」
「アタシも好きー! 小春ちゃん大好きー!」
 抱きつこうと思ったら、アタシと小春ちゃんの間にユウジが滑り込んできた。ちょっと! アンタ邪魔!
「どいてよ!」
「いやや」
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでまえ!」
「邪魔なんはのほうやろ」
 ばちばちばちと火花が散るほどに睨み合っても、私は一歩も引いたりしない。目つきの悪さならアンタに負けへんわ! 猫目猫目と罵られた私の眼力を受けてみよ!
「朝っぱらからあっついなー」
「ええ加減にしとけよー」
「あんたら暑苦しいわー」
 好き勝手言いながら通り過ぎていく友人たちを尻目に、私とユウジの睨み合いは続く…はずだった。
「あ、謙也くぅーん! お・は・よ・う。財前ちゃんもお・は・よ」
 はっ!? 小春ちゃんが謙也くんと腕を組んでる!? うらやまし、じゃなかった、憎たらしい!
「くぉら、小春! お前また浮気…!」
「何が浮気や! 小春ちゃんはアタシのもん…!」
「誰のもんでもあらへんやろ」
 さりげなく、通り過ぎた白石くんが呟いて去っていった。おま…! そんな正当なこと言われたら泣くっちゅーねん。傷つくっちゅーねん。ああせやけど。ここで負けたら女がすたる。
「小春ちゃーん! アタシもアタシも!」
 空いた小春ちゃんの右腕に縋って、謙也、小春、の腕組みトリオ結成や。おお! 後ろからものすごい形相でユウジが近寄ってきてる。けど、何があってもこの腕は離さへんで! 絶対に譲らへん!
 ぽん、と。ユウジの手が肩に当たる音がした。謙也くんの肩に。
「のけ」
「…そんな睨まんでも、のいたるって」
 おおっとー。謙也くんとユウジが交代かー。小春ちゃん、ちょっと寂しそうな顔をしとります。ユウジ、飽きられとんのとちゃう? それでも、すぐに小春ちゃんはいつものスマイルに戻って、私らは三人仲良く(ユウジとはそんなに仲良くなくても良い)教室に向かって歩いていった。歩調は心なしかいっちにーさんのワルツステップ。今日も朝から良い感じや。

 …まぁそれも、走ってきた金ちゃんに「邪魔やー!」て蹴散らされるまでの数秒間やったけどね。