蛇神への生贄



 幅広の布を主の顔に巻いて視界を閉ざしながら、俺は欝々とした声を出した。
「主。蛇神は、見た者を石に変える力があるといいます。ですから絶対に、この目隠しを外してはいけません」
「ええ」
「縛りは、きつくありませんか」
「大丈夫よ」
「……では、俺は下がります。……主、くれぐれも……」
「分かっているわ。目隠しは取らない。何をされても、蛇神さまには逆らわない。それでいいのでしょう?」
「……はい。ですが、どうしても無理だと思ったなら、俺を呼んでください。必ず、あなたを助けにきます」
「ええ、頼りにしているわ」
 顔半分を布に隠されながら、それでも主は気丈に笑っていた。きっと主は、何があっても俺を呼ばないだろう。これから行われる行為に、恐怖を感じないはずはないだろうに。白い寝間着姿の主は神々しさすらあって、俺は穢れを知らない主のそんな姿を目にし続けるのが辛かった。
 どうしてこうなったのだ、と自問するのは俺だけだ。疑問など露ほども抱かず、主は俺の言葉を妄信している。いや、正確には、蛇神さまという存在を妄信しているのだ。事の起こりは二月ほど前のことだった。錬度の低い部隊を厚樫山に出した結果、部隊長をはじめとした四振が重傷、二振が折れるという惨敗を喫した。主に仕える刀剣男士は、誰一人として主を責めなかったけれど、主はご自身をお許しになることができなかった。そしてあろうことか信仰に頼ろうとなされたのだ。俺に命じてくだされば良いものを。一言、長谷部に任せると言ってくだければ良かったのに。
 適度な信仰ならば良かった。主の心の支えとなり、正しく職務を全うできるものだったなら。しかし、主が手を伸ばした先は、明らかに信仰心を食い物にしようとするものばかりで信用に値しなかった。だから俺は嘘を吐いた。主に最も有益な神はこちらです。そうして作られたのが蛇神だった。折しも、庭で白蛇を見たという短刀たちの証言が、俺の嘘に現実味をもたせた。愚かしいにもほどがある。刀が神を騙るなど。付喪神などというものは、狐狸妖怪の類だというのに。
(……主)
 蛇神は男神である。主が女であることが知れたなら、その身を贄にと求められるでしょう。もっともらしい理由をつけて、俺は神と主の仲介をかって出た。主が蛇神への願いを口にすれば、それを俺が神へ伝える。そして返答をまた主へ。馬鹿げた茶番だ。戦の采配は、実質俺が担ったも同然だった。蛇神の存在は他の刀剣男士には内緒ですよ。俺が重ねる嘘はひとつ、ひとつと増えていった。
「主、申し訳ありません。かの神に、主の存在を知られてしまいました」
 先に耐えられなくなったのは、当然のごとく俺だった。盲目的に蛇神を信じ、その神威にひれ伏す主を見ていられなくなったのだ。俺にとって、神よりも尊いのは主だった。在りもしない神に陶酔し、目の前にいる俺のことを忘れてしまわれたかのように振る舞う主が憎いとさえ思った。
(無茶を言えば、きっと主も目を覚ましてくださるに違いない)
 蛇神が邪まなものであると知れたなら、主の縋る腕は行き場を失う。今度こそ俺を頼っていただけるようにしなければ。そのために、俺はまたひとつ大きな嘘を吐いたのだ。
「蛇神は、常に妻を求めています。主が女と知れた今、あなたを妻にと望まれるでしょう。主、ここが潮時です。今ならまだ、かの神に供物とこれまでの施しに感謝の意を捧げれば、それ以上の代償は求められずに済みます」
「でもそうしたら、もう蛇神さまのご加護を受けられないのでしょう?」
「ある、じ……?」
「私が身を捧げることで、これからも蛇神さまのご神託を受けられるなら安いものだわ。……もう誰かが折れるのは嫌だもの。嫁げと仰るなら、それに従いましょう」
「主!」
「ああ。それとも、食べられてしまうのかしら。それは困るわ」
「いえっ、そのような……っ! ひ、人の、婚姻と同じです。身を重ね、その霊性を交わらせる……。ですが、主。あなたが、その……生娘でないのなら、この契りは無効に……」
「それなら、安心ね。こう見えて、まだ一度も経験がないの」
「……主」
「心配しなくても大丈夫よ、長谷部。きっと蛇神さまにご満足いただけるよう頑張るから」
 塗り重ねた嘘をどうすれば壊せるのか、もう俺には分からなかった。主の決意に押されるように、俺はただ着々と蛇神への嫁入り準備を進めるしかなかった。新月の夜を選び、主に禊を行わせる。清められた主はいつにも増して美しく、この方が俺の妻であればと何度思ったかしれなかった。しかし主は蛇神へ嫁ぐのだ。在りもしない神のもとへ。この茶番をどうやって終わらせたらいいのか、俺には分からなかった。
「それじゃ、長谷部。また明日」
「……はい。主がつつがなくご使命を果たされますよう」
「ええ、おやすみなさい」
 この日のために用意した離れの座敷を辞して、俺はぼんやりと廊下の暗闇を眺めていた。このまま何事もなく朝を迎えれば、主は蛇神などいないということに気付かれるだろうか。それとも知らないうちに神へ嫁いだのだと納得されてしまうのだろうか。
(どうすればいいんだ……)
 良い考えなど何一つ浮かばない。俺はのろのろと渡殿へ向かった。離れと母屋を繋ぐ渡殿からは、暗い庭が見えていた。月のない夜だ。本丸に灯りは灯されているものの、庭の隅にまでその光は届かない。塗り込めたような暗闇の中で、俺はその音を耳にした。ずるずると何かを引きずるような音だった。目を凝らせば、庭に植えられた草花が揺れて、その陰から白い塊が現れた。
 それは見たこともない大蛇だった。白い鱗が暗がりにぼんやりと浮かびあがり、自ら光を放っているかのように、その姿が鮮明に見える。新月の闇の中で、白いとはいえこれほどくっきりとその姿が見えるのは異常だ。蛇神。あり得ない名が脳裏に浮かんで、俺は戦慄した。馬鹿な。蛇神など、俺が作り出したまやかしの存在にすぎないというのに。
――そう思うか。
 耳を焼くような声が聞こえて、俺はびくりと身を固くした。なんだ、今のは。
――われは確かに、そなたたちが蛇神と呼んでいるものよ。誘いに応じて、まかりこした。さて、われの花嫁はどこだろうか。
「……なん、だと」
――われの花嫁となる娘はどこに、
 いる、と。言葉が終わらないうちに、蛇の頭が跳ねて、庭木の根元にごろごろと転がった。
――何をする。
「首を刎ねてもまだ喋れるのか。厄介な。切り刻めば事切れるか?」
――無礼な。
「ハッ。想像から生まれた存在で何を言う。主を貴様にくれてやる謂れはない。寸刻みにされたくなかったら、とっととその長い尾を巻いて去るがいい」
――だが娘は、われの力を欲しているのだろう? 刀のそなたに何ができる。
「ははっ。馬鹿を言うなよ。蛇神は、俺が作り出した。蛇神として主に智恵を授けてきたのは、すべてこの俺だ」
 のたり、のたりと蛇の体がうねる。切り離された頭と体が、てんでバラバラにのたうって庭の土をどす黒く染めていった。空想の神でも血が流れるのか。それともこれは、俺が見ているまやかしなのだろうか。……だがそれも、もうどちらでも構わない。
「俺が主を支えてきた。俺が主に進軍の是非を答え、最良の部隊を組み、望めるうちで最も多くの益を、主に……!」
 そうだ。すべて俺が行ったことだ。つまり、蛇神とは俺であるべきだ。本来主と契るべきは、この白蛇にあらず。
「……消えろ」
 大蛇の腹を縦に切り裂くように。振るった刀を鞘に納めるころには、庭に白い蛇の姿はなかった。


   *** ***


 最初から、こうしておけばよかったのだ。湯浴みを終え、寝間着に着替えて再び座敷に戻った時にはとうに日付が変わっていた。褥に横たわった主は、緊張のためかまだ起きていたらしい。襖を開けるとともに、こちらを向く気配がした。
「……誰?」
 かすれた声が誰何する。けれど答えることはできない。いまの俺は、へし切長谷部ではない。妻を娶りにきた、蛇神なのだ。
「……長谷部?」
 踏み出そうとした足が、その声に動かなくなる。落ち着け。視界を遮られた主に、分かるはずがない。今夜の儀式を知っているのが俺だけだから、だから名を呼ばれただけだ。狼狽えるな。
「……蛇神さま、ですか?」
 答える代わりに、俺は再び主に向かって足を踏み出した。きしきしと畳の鳴る音がする。あまり使われてこなかった座敷の、少し浮いた畳を踏んで主の傍に膝をつく。大人しく仰臥した主の頬に、そっと触れた。
「蛇神さま。いつも、いつも私の願いを聞いてくださって、ありがとうございます。おかげ様で、あれから誰も折れることなく、私は審神者の任をこなせています。どうかこれからも、蛇神さまのお力で、誰一人欠けることなく過ごせますようお力添えください。この身は、お望みのままいかようにも、」
 まだ言葉を紡ごうとする唇に、そっと指を押しあてる。分かっています。あなたの望みをかなえるのが俺の役目。へし切長谷部として、蛇神として、どのような手段を使っても、すべてあなたの望みのままに。ですからあなたは、どうか俺の妻として俺の求める務めを果たしてください。
「っ……っ」
 ぬるりと、唇を割って絡ませた舌を、口の奥深くへと挿し入れて歯列をなぞるように味わう。甘い。想像したより熱い舌と唾液で脳髄が焼けるように熱くなり、俺は急かされたように主の胸を寝間着の上から掴みあげた。
「んっ……っ、ふ……っ」
 触れたことのない柔らかな感触に背筋が震える。主の体はこれほど柔らかかったのか。唇を離して主の体に跨り、乱暴に帯を解くと白い磁器のような肌が現れた。首筋に触れる。びくりと跳ねるように反応した肌を、喉元から鎖骨、胸の谷間、腹、臍、下腹部へと、指先でなぞるように撫でていく。滑らかな皮膚は、主の忙しない呼吸で激しく上下している。ああ、なんて美しい。思わず感嘆の吐息が漏れる。みっちりと肉のついた太ももを広げてその間に体を割りこませると、無防備に晒された下着の白が殊の外眩しく視界に映った。
(順にほぐしていかなければ)
 主は生娘なのだ。なるべく無理を強いないようにしなければ。太ももに添えていた手を離して、俺は再びねっとりと主に口付けた。主の体を覆うように、肌が触れそうなほど近く体を寄せる。俺と主の体の間には手のひら。口付けて主の唾液を啜りながら、胸の膨らみをゆっくりと捏ねていく。張りのある膨らみは手の中で柔らかく歪み、先端の膨らみを硬くして俺に触れられるのを喜んでいた。
「んっ……っあっ……っあぁっ……」
 きゅっと膨らみを摘まむたび、びくびくと主が体を震わせる。俺と約束したとおり、主は俺の愛撫に従順に耐えて、一言も拒絶の言葉を口にせず、それどころか甘い声で俺の耳を突いてくる。淫らな声が熱を帯びて、快楽の兆しを伝えてきた。赤く染まった頬。熟れた茱萸(ぐみ)の実のような唇から、絶え間なく嬌声が零れて止まらない。
「は……っあ……っ」
 上昇する体温に誘われるまま、両手で主の乳房を掴む。天井へ突き上げるような突起は、舌で舐めても、咥えても、ぷるぷるとその弾力を失わず、触れるたびに主の高い喘ぎを迸らせる。
「っひん……っあ……っ、ぁっ……っ」
 その頃には主の肌のどこに触れても、ひくひくと肌を引き攣らせるように小さく反応するようになっていた。もとより、主は感じやすい性質のようだった。あちこち触れて、汗に濡れ始めた皮膚を舐めてやるだけでも嬌声を漏らす。本当に処女なのかと疑いたくなる有様に、俺はごくりと唾を飲みながらその場所へ触れた。
「あぁっんっ!」
 ひと際大きく仰け反って、主の下半身がびくびくと跳ねていた。下着の上から一度擦っただけでこの反応。じっとりと濡れた秘部を、布地の上から擦ってやると、身をくねらせて逃れようとする。よほど声をかけてやろうかと思ってしまった。主、蛇神のすることに逆らわないのではなかったのですか? しかしここで俺の声を聞かせるわけにはいかないのだ。俺はがっちりと主の体を抑え込み、跳ねようとする腰を抑えてゆっくりと下着を脱がせていった。
 剥き出しになった秘部に指を這わせる。膨らんだ淫核を撫でるように、押し潰すように、数本の指で何度も刺激してやると、少し下がった割れ目がぬるぬるとぬかるみ始めて指の滑りがよくなった。改めてそのぬめりを指に絡め、二本の指で挟んだ淫核をくにくにと刺激してやる。
「あっ、ぁっ、あんっ……んっ……っ!」
 びくんびくんと浮き上がる腰を抑えて、くちゃくちゃと音を立てながら秘部を擦っていると、溢れてきた愛液で主の陰毛がじっとりと肌に貼りついてしまった。絡みそうな毛を避けて、割れ目の窪みに指を這わす。
「は……ぁん……っ」
 中指はすんなりと奥へ潜り、くぽくぽと小さな音を立てて出し入れをするのも問題ないようだ。根元まで挿し入れた指に、主ははくはくと唇を動かして悶えている。しかし指ならば少なくとも三本が入らなければ、俺の陰茎を押し込むことは不可能だ。蕩けた窪みに、俺はそっと薬指を添えた。
「い……っ!?」
 みちりと肉の開く音がして、中指と薬指の二本が飲みこまれていく。痛むのか、主の体は途端に強張ってしまった。これでは、まだまだ俺を咥えることは難しそうだ。指先を入れただけの状態で俺は手の動きを止め、代わりに舌先で主の淫核をぺろりと舐めた。
「ひんっ……っ!」
 ぎゅっと、中に入れていた指が締め付けられる。続けて吸い付くように淫核を口に含み、ぺろぺろと舌全体で舐め上げると主の腰ががくがくと震えた。
「ひぁ……っ、あっ、あっ、あぁっ……!」
 幾度か強く収縮した膣の圧力が、ふわりと解けたように広がる。緩んだその一瞬に指を進めると、二本の指がみっちりと根元まで入りこんだ。上出来だ。
「ひぅ……っあっ、へび、がみ、さまぁ……っ」
 聞いたことのない甘ったるい声で、主が俺の名前を呼ぶ。
「っ、いた……っ、んぅ……っ、いたい……っ」
 淫核に吸い付きながら、指の抜き差しを進めると、初めて主が文句らしい言葉を口にした。それでもどうやら耐えているようで、強く息を詰めて布団にしがみ付いている健気な様子に、俺はまた酷く熱を煽られた。早く主と繋がってしまいたい。はちきれそうに膨らんだ下腹部の熱が、とろとろと先走りを流しているのは分かっていた。主の下腹部から顔を上げて、ぷるぷると揺れている乳房にむしゃぶりつく。抜けそうになった指に、今度はさらに人差し指を添えて、三本。ゆっくりと膣口を押し開いていく。
「あっ……っ、だめ……っ!」
 ぐぷりと、指先が主の胎内を犯す。痛みに腰を引き攣らせた主が、拒絶の声をあげるのを聞きながら、空いた親指で主の淫核をぐりぐりと刺激した。
「ひぐっ……うっ……っぅ……っ!」
 気を散らしやすいように、主の性感帯をどれだけ刺激してやっても、やはり初めての体には辛いのか、がちがちに固まった膣口は指を半ばまでしか飲みこめず、主は目隠しを涙に濡らして喘いでいた。潮時だ。前戯で主を疲れさせるのも忍びない。愛液でどろどろに濡れた指を引き抜き、力の抜けた主の唇に、幾度か吸い付くような口付けをした。
「は……っ、はぁ……っ、蛇神、さま……、申し訳、ありませ……」
 肩で息をしながら、それでも主は従順にこの務めを果たそうとしていた。
「い、痛く、て、どうしても、声が出てしまうのですが、どうか、最後まで、してください。私が、嫌だと言っても、どうか……」
 するりと、俺の腕を撫でるように主が手を伸ばす。その細い手を掴んで、答えるように指先に口付けた。もとより、途中で終わるつもりなどない。興奮しきった俺の熱を、主の中で迸らせるまでは。それにこれほど健気な姿を見せられて、どうして我慢ができるだろうか。
 主の手のひらに口付けたまま、太ももを開いて濡れた秘部に腰を合わせる。猛りきった俺の陰茎の先を、主の窪みにぴったりと合わせて。そして。
「いぅ……っ!!」
「……っ!」
 思わず俺も声をあげそうになって、喉の奥で唾を飲み込んだ。乱暴にこじあけた主の膣は狭く、みちりと俺を絞ってくる。すぐに出してしまいそうになるのを堪えながら、入れられるだけ奥まで陰茎を捩じ込んだ。
「い、いた……っ、いたい……っ!」
 堪えることもできずに、主がひぃひぃと喉を鳴らしている。それに構わず、俺はずるずると中まで挿し入れた雄を引き抜いた。勢い余って、すべて中から抜けてしまう。
「は……っ、はっ……」
 荒く、肩で息をしている主に、再び陰茎を挿し入れる。今度は抜けないように、ぎりぎりまで引いて、再び奥へ。
「あぅ……っ、いた、い……っ、痛いっ……!」
 痛みに慣れることができないのだろう。痛い痛いと繰り返す主は哀れで、その分俺は興奮を隠せなかった。奥の奥まで貫くと、ひくりと膣内が縮んで締め付けられる。同時に主も息を飲んで、全身で俺の精を絞るように肉が収縮した。きもちいい。主が全身で俺を感じて、俺に貫かれて泣いている。はは、なんて光景だ。俺が主を犯している。
 興奮は冷めるどころかどんどんと募っていく。腰の動きはそれに比例して早くなり、俺はどうにも堪えることができなくなった。低く主に覆いかぶさり、柔らかい体を抱き締める。口付け、頬を舐め、その耳元に唇を寄せて、腰だけをぐぽぐぽと振るって強く奥を刺激した。気持ちいい。気持ちいい。主。あるじ。あるじの中に、俺の精を。
「あっ、あっ、あっ、あっ……!」
 肌のぶつかる音に合わせて主の喉が鳴く。枯れそうな喉で嬌声を絞り出して、少しでも痛みと、乱暴な衝撃を逃そうとしているようで。
(哀れだ。主。主。主……っ。俺などに犯されて、あなたは……っ!)
「んっ、ん……っ」
 ぎゅっと主の腰を引き寄せて遠慮もなく熱を吐き出す。腹と腰がびくびくと跳ねて、少しも漏らさず主の中へ熱い精を注ぎ込んだ。二度、三度と竿を中で扱いてから引き抜くと、つられたようにとろりと中からそれが漏れてきた。白くはない、少し桃色に染まったそれが、主の血によるものだと気づいてぞくりと腰が震えた。本当に、俺は主と契ったのだ。主の純潔を俺が汚してしまった。これで主は俺の妻だ。他の誰でもない、俺だけの。
 震えてしまう吐息を飲みこみ、まだひくひくと体を震わせている主に覆いかぶさる。薄く開いた唇に、最後に一度だけ。
 労うような口付けを残した。