依存症の神様



 その日は朝から本丸中が浮かれていた。主が久しぶりにお帰りになるというのだ。落ち着いていられる方が稀だろう。あの江雪でさえも、どこかそわそわとした雰囲気を漂わせていたほどだ。いわんや、俺である。髪の跳ね一つをも見逃さないよう、入念に身繕いをし、主の帰還を待ちわびる。数日前から全員で本丸の掃除を終わらせた。馬の調子も上々、畑の管理に抜かりもない。いつ何時でも、主が再び号令を下されれば、俺たちは一丸となって主の命を果たす用意が出来ていた。
 事の起こりは、昨年秋の審神者一斉検診の結果だった。一年に一度、審神者の健康状態や精神状態を把握するという名目で行われるそれで、主の体に異変が見つかったのである。大病の芽は幸いにも初期に見つかったため完治可能な状態であり、主は速やかに現世へ帰還、治療を受けられることになった。その間、この本丸の機能は実質的に停止していた。指揮官を失った兵に出来ることといえば、本丸の経年劣化を防止し、馬や畑を維持し続けることだけであり、出陣は言わずもがな、演練すらも行えない状態だったのだ。暇を持て余した者の中には趣味をこじらせ、妙に料理が上達したものや、なぜか踊りを極めたものが現れる始末だったが、それでも誰一人欠けることなく、こうして主を迎えられるのだから、留守居を預かる近侍としては、務めを果たせて胸をなで下ろしているところでもあった。
「お帰りなさいませ、主。一同、主の帰還を心よりお待ちしておりました。」
 みなを代表し、近侍の俺がまず頭を下げると、後ろに居並んだ全員が揃って首を垂れる衣擦れの音が聞こえた。下げた頭の向こうで、主が息を飲むのが分かる。崩れそうになる表情を引き締めて顔を上げれば、思った通り、双眸を潤ませた主と正面から目が合った。
「…長谷部。」
「よく、ご無事でお戻りくださいました…っ!」
「…長谷部…っ!」
 飛びつく、という表現が正しいのだろう。荷物も何も投げ捨てて、主が俺の腕の中へ――否、俺が主の腕に抱かれてしまう。それを契機に、後ろからわっと全員が飛び出してきた。
「主!」
「主君、お帰りなさい!」
「主さま! 少しお痩せになられましたか?」
「おいおい、大将は病み上がりなんだから、そう言うことは思ってても口に出さないもんだぜ。」
 口々に喋り出したせいで、誰が何を言っているのか訳が分からない。しかし誰の口調にも喜色が溢れて、心なしか座敷の中がぱっと明るくなったような気さえした。主が不在の折には、終ぞ見られなかった光景だ。誰もが待ち望んでいた。またこうして、主を囲んで騒げる時を。誰も彼もが笑みを浮かべる中で、ただひとり感極まって涙目になった主が鼻を啜った。
「ごめんなさい。苦労をかけたでしょう。…私がいなかったから、長谷部もこんな…。」
 言われて俺は苦笑する。事前に手紙で報告はしていたが、やはり俺のこの姿には驚かれていたようだ。そう。今の俺は、主の背丈にも満たない場所から、彼女を見上げる有様だった。主に最も近い場所でその任を補佐するのが近侍の役目だが、近しい立場にあればあるほど、主の霊力の影響を強く受けるらしい。というより、俺が主と恋仲だから、というのが大きいのか。主が本丸を離れられてから、俺の身の内に溜まった主の霊気が徐々に減り、それに伴って俺の体は人が若返るように縮んでしまった。今の俺は、短刀ほどの体躯である。若年化は異例とはいえ前例もあるそうだ。とはいえ、これ以上縮まれては困るところだったので、主のお戻りが早くて誰より助かったのは、実は俺自身なのだった。
「ご安心ください。こんのすけより聞いております。主がお戻りになられれば、また徐々に霊力が溜まり、元の俺に戻れるそうですよ。」
「そうなの、良かった…。その体だと、刀を振るうのも大変じゃない?」
「いえ、それは問題ありません。体が縮んだとはいえ、獲物は俺自身ですから。出陣はいつも通り、俺にお任せください。…それよりも、主。主のお体は…。」
「うん。心配かけてごめんなさい。もう大丈夫よ。手術の傷も、ちゃんと塞がるまで病院にいたから何も気にしないで。体が鈍っているから、動かないといけないくらいかしら。」
「そうですか。それは、良かった。少しずつ、慣れてくださいね。俺がなんでもお手伝いしますから。」
「ええ、長谷部。お願いね。」
 主がそっと俺の手を取って、きゅっと優しく握りしめた。それだけで、俺が抑えていた喜びの気持ちが、ぶわりと溢れて桜が舞った。周りで冷やかす声が聞こえたが、それがなんだというのだ。俺の主が、また、俺の元へ帰ってきてくださった。これ以上の喜びなどない。俺は、主の傍にいられればいいのだから。


 *** ***


 主が戻られてからの日々は忙しかった。まずは肩慣らしに比較的近くの遠征や知人審神者との演練を数日、その後ようやく出陣するに至り、俺は主とともに第一陣に選ばれた者たちの誇らしげな顔を見送った。幾度も訪れた場所だからだろう、部隊の戦果は上々で、その後も次々と隊列が組まれて送り出されていった。俺も幾度か戦場に向かい、戻るたび出迎えてくださる主の笑みに安堵したものだ。順調な日々が続いた。ただ一つの懸念を除いて。
「主、本日もお疲れさまでした。」
「長谷部も、今日もよく務めてくれて、ありがとう。」
 主の私室でその日最後の挨拶を交わし、俺が踵を返そうとした時だった。
「ああ、待って、長谷部。」
「はい?」
「その、体のほうは、どうかしら?」
 心配そうに眉根を寄せる主に、ああ、と俺は苦笑した。縮んだ姿はまだそのままで、幼い俺の姿にそろそろ周りも馴染み始めている。演練で会う相手方も、最初の頃は俺の容姿に驚いていたものだが、噂が広まったせいか、奇異や好奇の目を向けてくるものも減りつつあった。俺がこの姿に長く馴染んだ証である。
「特に不都合はありません。遠征も出陣も内番も、主の命はきちんと果たせているでしょう?」
「それは、そうなのだけど…。」
「…それだけでは、不服ですか?」
 既に夜着に着替えた主の、無防備な姿に劣情が沸き上がる。体が縮んだとはいえ、中身はかつての俺のままだ。これまでは日々が慌ただしくそれどころではなかったが、本丸が落ち着きつつある今、そろそろ欲を出してもいいのかもしれない。俺がずい、と膝を詰めると、驚いたように主が目を見開いた。
「主。口吸いをしても?」
「えっ!」
「…なぜ目が泳ぐのです…。」
「えぇ、だ、だって、長谷部、」
「それとも、俺のことはもうお嫌いになりましたか。」
「そ、そんなことないっ!」
「では、いいのでしょう? …ねぇ、主。」
 身を乗り出して唇を寄せると、観念したように主が目を閉じた。引き結ばれた唇を舌先で軽く舐めてみる。それだけで主は体を硬くし、その様子が可笑しくて俺は笑いながら主に口づけた。柔らかい唇の感触を、確かめるように啄んでは離す。もどかしい口づけは俺を徐々に大胆にした。
「あるじ…あぅじ。お口を、開けて…。」
「ん…っ。」
「ちゅ…。ふふ、久しぶりで慣れませんか?」
 たどたどしく絡められる舌先を吸う。きちんと座っていることが出来ずに姿勢を崩した主を支え、俺はさらに深く舌を差し入れた。とろとろと溢れてくる唾液を飲み込み、何度も角度を変えて口腔を貪る。主の熱い吐息が舌先を伝って、俺の腰を熱くした。
「主…。」
 甘えた声で主の名を呼ぶ。夜着の襟を徐々に寛げ、両の乳房を露わにすると、主が慌てて前を合わせようとした。それまで蕩けた顔で俺と口づけを交わしていたのに、なぜ拒むのですか。俺は主の行動の意味が分からず、半ば強引に襟の合わせを開いて、白い肌を見下ろした。
 乳房の柔らかな膨らみに目を細めたのも束の間、その下に見えた醜い傷跡に視線が釘付けになる。手術の跡だ。腹を縦に裂いた傷が塞がり、その接合部分が引き攣ってみみずが這っているようだった。俺の視線に耐えかねて、主がぐっと、俺の肩を押した。
「…みっともないでしょう。…傷一つないって…綺麗だって、長谷部が言ってくれたのに…。」
 主はそう言うと、腹の傷を隠そうと、その場所を手のひらで覆ってしまわれた。そうすれば、記憶の通りの美しい肢体が俺の目に映る。少しやせて、肋骨の位置がわかるようになってしまった肌は、それでも記憶のままに白く滑らかな陶磁器のようだ。
「…そんなこと、ありません。主は、綺麗です。そんな傷一つで、あなたを嫌いになりはしませんよ。」
 主の手を退け、代わりに俺の小さな手で傷を覆う。みみず腫れのように膨らんだ傷に指を這わせると、主は怯えたように肩を震わせた。安心させるようにその痕を撫で、唇に何度も軽く口づけをして、気を紛らわす。幾度かそれを繰り返しているうちに、主の肩から力が抜けていくのが分かった。そのまま、俺は主の胸を両手で掴んで、先端をくりくりと優しく刺激してやった。
 びくりと大袈裟に反応した主が、甘い声をあげた。その声が文句に変わるよりも早く、膨らんだ乳房の先端に、ちう、と唇を寄せて吸い付いた俺は、主を跨ぐようにしてその体を押し倒そうとした。焦ったように忙しくなく、主の手が拒絶するように俺の肩を強く押す。
「あっ、だめ、長谷部…っ!」
「…どうして、駄目なんです。ここは、俺にもっと触って欲しがっていますよ…?」
 ぺろりと乳頭を舐める。ぴんと尖った乳首の先が、俺の舌先でぷるりと震えて愛らしい。間髪入れずにまたそれを口に含むと、俺の肩を押す力が僅かに強くなった。
「だめ…っ、だめだってば…っ!」
「だから理由を…、」
「今の長谷部は、だめなの…っ! こんな、小さい子とえっちなんてできないよ…。ね、今日は、やめ…っんぁっ!」
 言われた言葉の意味を理解して、俺は口先で強く主の乳首を吸った。舌を添えてちろちろと舐めながら、乳房を支えていた手に力を入れてぐにぐにと膨らみを揉んでやる。
「あ…っ、長谷部…っ、だめだって…っ。」
「ん…主。今の俺が子どもの格好だからと言って、何も気にすることはありませんよ。中身はいつもの俺です。機能のほうも問題ありません。…実は主がご不在の間に、確かめておいたんです。ちゃんと子種も出ますから、ご安心ください。」
 言いながら、俺は腰を寛げて下穿きを下ろし、主の手を取って自分の股間に導いた。毛も生えそろわないそこには、小さいながらも確かに雄としての機能を備えたそれが、天を衝くように頭をもたげていた。普段の俺に比べれば、笑えるほどに小さなそれは、主の親指より少し大きい程度だろうか。主の指が触れて、ぴくりと健気に反応を示していた。
「…っ、はせ、べ…っ。」
「主も、溜まっていたでしょう…? 前にまぐわったのは、検診の数日前でしたからね。ご無沙汰過ぎて、主の顔を見るなり俺のここは元気になっていたんですが、お気づきでしたか?」
 ふるふると主が首を横に振る。それもそうだろう。あの時は周りが騒がしくてそれどころではなかったし、勃ってなお柔らかい今の陰茎は、服に抑えられて勃起したこともあまり表面化しないのだ。
「…主、俺のことを嫌いになったのでなければ、…ね? 俺と、また気持ちよくなりましょう…?」
「っんぁ…っ。」
 甘く蕩けた声で俺の理性もぐずぐずと崩れていく。待ちわびた声だ。主の柔らかい体を撫で、掴み、揉んで、ゆっくりと解していく。痩せて肉が減ったとはいえ、胸の膨らみや尻肉の弾力は健在で、俺が執拗に尻を揉んでいると主は焦れたように腰をくねらせた。しかし、俺がその尻を撫でると慌てたように手を掴んで動きを止めてしまう。
「だ、だめ…っ!」
「…そう強情を張らなくても…。」
「んっ!?」
「ちゅ…ほら、こっちは俺を歓迎しているようですね?」
 口づけたまま、手だけを腹の下へ向かわせる。つい、と布の上から割れ目をなぞると、指先に濡れた感触がして思わず唇が緩んだ。ほんの少し肩に力を入れて押すだけで、主の体は簡単に床へ倒れる。乱れた裾を割って足の間に入り、遠慮なく帯をほどいて裸身を露わにしたが、今度はあまり抵抗を見せなかった。
 とろりと、愛液を滴らせた主の秘部が眼前に晒される。いつもならまずは指で解してから雄を突き立てるところだが、今日は躊躇いなくその場所へ陰茎を押し込んだ。
 押し込む、という表現も適切ではなかった。さしたる抵抗もなく、主の膣は簡単に俺を飲み込んで奥へ誘うように蠢き、小さな陰茎を優しく包み込んでくる。じわりと滲む愛液はぬるぬると秘所を濡らし、すんなり受け入れられた俺は、繋がった場所を見下ろしてうっとりと微笑んだ。主も赤い顔をしながら、そこを見つめ、甘えた可愛い声をあげた。
「そ、んな…あ、ん…っ。長谷部の、ちっちゃいおちんちん、入って…っ。」
「あ…っ、あるじ…っ、どうです、痛く、ないでしょう?」
「あんっ、う、うん、痛く、ない…っ。」
 腰を動かすと、くぷ、くぷと小さな音がする。相愛になってから主とは幾度か体を重ねたものの、体格のせいでいつも主は痛がって泣いていた。それが、今は蕩けた顔で嬉しそうに俺を飲み込んでいる。
「いつもよりずっと細くて短くて…、物足りませんか…っ?」
「っそんなこと、な…あっ、いまのっ、きもちいぃ…っ。」
「は、ここ、ですね?」
「あぁっ、い、今のとこ…っ! はせべ、もぅ一回…っ! いまの、気持ちよかったよぉ…っ!」
 言われるまでもなく知っている。主の弱いところだ。いつもは指で攻めるその場所を、男根の先でぐちゅぐちゅと突いてやると、主の喘ぎ声が高く可愛く耳に響いた。
「っあっ、あぁっ、きもちい…ッ! そこッ、はせべ…ッ、気持ちいいよっ、いい…ッ!」
 ぱちゅん、ぱちゅんと肌が当たる音がする。
「あっ、やだっ、イッちゃう…っ! 長谷部のちっちゃいおちんちんに突かれてイっちゃうぅぅッ!!」
 緩やかに膣内がうねって、俺の男根をぬるりと締め上げた。いつもきついと感じるはずの収縮が、優しい愛撫のようで驚いてしまう。その感触に逆らわず、短い男根を根元まで入れて俺はぴゅるるっと元気よく膣内に子種を吐き出した。
「あぁ…っ、長谷部の、中で出てる…っ。」
 勢いだけは良い精液の熱を感じて、主が恍惚の表情を浮かべる。この数ヶ月、主を想ってひとり自慰に耽っていた夜が、それだけで報われた気がした。今日の主は、俺の陰茎の太さや長さに苦しげな表情を見せるわけでもなく、ただ蕩けた顔で俺を見上げてくる。この長さでは奥まで突いて差し上げることができないから、満足していただけるか心配もあったが、杞憂だったようだ。むしろいつもより気持ちよさそうな様子に、少し歯噛みしたくもある。俺は萎えた陰茎を主の中に収めたままで、再び主の乳房を掴むと、ゆっくりと乳頭を舐め上げた。
「んぁっ。」
 一度達して敏感になっているのだろう。指先で乳首を摘まみ、くりくりと刺激してやると、びくん、びくんと繰り返し主の体が反応する。舌で濡らした乳首を甘噛みして、吸って、舌先で転がして、あふあふと恥ずかしそうに反応する主を眺めているうち、突っ込んだままの男根がむくむくと膨らんでいくのが感じられた。
「あっ…はぁ…っ、はせべの、おちんちん、おっきく、なってる…ぅ。」
「はは…、あるじが、いやらしくて…っ。」
「やぁ、そんな、言い方…っ、だって、長谷部が…っあぁん、さっきより、おっきぃ…っ!」
 きゅう、と締め付ける主の膣圧が高くなる。確かに先ほどよりみっちりと吸い付く膣肉に感触が明確になった。主の締め付けが強くなったのかと嬉しくなって、俺はちゅぷちゅぷと音を立てながら律動を開始した。
「んっ、あぁっ! はせべっ、動いちゃ、や…っ。」
 吐き出した精が中で掻き混ぜられるのを嫌がって、主がふるふると首を横へ振るが、それには構わず腰の動きを続けていく。次も、その次も、まだ中で出す予定なのだ。これくらいで音を上げられては堪らない。主の膝をぐっと中央に寄せ、脚を開かせずに閉じたままで顔のあたりへ押し上げる。さらに膣圧の増した胎へ竿を出し入れすると、膣壁を擦りあげる陰茎の摩擦が、じわじわと腰に溜まっていく。積みあがる射精感を高めるだけ高め、主の嬌声に誘われるようにして、また俺は精を放った。
「あ…、ま、た…っ。」
「主…っ、すみません。俺も久しぶりで…すぐに出てしまって…。ですが、またすぐに。ん…、あぅじ…。」
 肩で息をする主の浅い呼吸を吸い上げるように口を塞いで舌を舐める。たどたどしく、主からも舌を絡めてくださって、俺はうっとりとその柔らかい肉を甘噛みした。円を描くように腰を動かし、主の中から抜けないように膣壁で陰茎を擦っていく。疲れを知らない若い体が、またすぐに熱を帯びていくのが感じられた。
「あ…っ、や、だぁ…っ、はせべの、おちんちん…っ、さっきよりまたおっきくなったぁ…っ。」
 ぐぷ、ぐちゅ、と接合部が卑猥な音を立てる。確かに締めつけが更にきつくなった。俺にされるがまま貫かれている主は、はひはひと喘ぎ声をあげながらも、目を閉じて快楽に身を任せている。
「あ、るじ…っ、きもちいいですか…っ。」
 とろとろに蕩けた膣やその締め付けで主が感じているのはよく分かっていながら、その甘い声を聴きたいがために俺は詮もない質問を口にした。そしてぎょっとする。掠れながらも、聞こえた声は随分と低い。ここ数日散々耳にしていた声変わり前の、あの子ども特有の高い声ではなかった。慌てて主の乳房に手をやると、先ほどまで両手でやっと覆えるくらいだった乳房が、片手で覆える程度になっていた。腰を引いて陰茎を眺める。ずるりと主の秘所から引き抜かれたそれは、体が縮む前には及ばないながら、まぐわう前に見た白く幼いものとは比べ物にならないほど赤黒く凶暴な形に変化していた。
「は、せべ…?」
 唐突に律動が止まるだけでなく、貫かれていた肉棒すら抜き去られ、主が頼りなげに戸惑った声をあげた。俺は濡れた秘所へ再び自身を挿し入れながら、ぎゅっと主の上に圧し掛かった。
「…っあるじ…っ。」
 低い声に呼ばれ、ようやく主もその変化に気付いたようだった。
「…う、そ。長谷部、大きく、なって…っ。」
「はい、そのようです。っ、まぐわうことで、直接霊力が伝わるのでしょうか…っ。」
「っんぁっ! や、だ…っ、そんな、強くしないで…っ!」
「っ、痛みましたか…っ?」
「痛くは、ないけど…っ、さっきまで、優しかった、のに…っんっ、こら、また…っ!」
「すみません…っ、ですが、先ほどより締め付けが強くて…っ、始めよりずっと、ずっときもち、よくて…っ!」
「や、やだっ、だめっ、はせべ…っ、おっきくなってるから、そんな、強く突いちゃ…っっ!」
 きゅうう、と収縮した膣に主の息が詰まる。また達したのかと思ったが、俺はそのまま律動を繰り返した。主の喉からは、あっ、あっ、と繰り返し小さな喘ぎ声が漏れて、俺がひと突きするごとに主の膣がきゅんと締まる。小さな陰茎で何度も突いていた場所を今の男根で強く押すと刺激が強すぎるのか、ひぃっと悲鳴に似た声があがった。痛い、とは言わないから気持ちいいだけなのだろう。主の様子に気を配りながらも、俺は徐々に自分の余裕がなくなっていることに気付いていた。
「あるじ…っ、こうしていたら、もとに、戻れるのでは…っ!」
「やっ、あぁっ、はせべっ、そんなっ、激し…っ!」
「あるじ、あるじ…っ!」
「やだっ、やだぁっ、また、イッちゃ…っッ、ッ、〜〜〜ッ!」
 びく、びくと繰り返し主の体が痙攣する。激しく達したその瞬間の、どこかへ飛んでしまったような蕩けた表情が最高にそそる。腰を揺すって主の達した様子を眺めながら、俺は三度目の精を主の中に注ぎ入れた。主の腰を掴む己の手や、目に映る腕を眺めてみたが、顕著な変化は見られない。どうやら体の戻りは急速に起こっているわけではないようだった。腰を打ち付けている間にも、徐々に元の大きさへ戻っているに違いない。吐精して萎えた陰茎が膨らむとき、より成長を顕著に感じるだけなのだろう。そう予想を立てると、俺は萎えたそれを再び主の中から引き抜いた。俺に塞がれていたら秘所から、とろりと白濁が流れて尻を汚す。主のあられもない姿に再び興奮を覚えながら、繁みの中からぷっくりと赤く色づいた陰核が覗いているのに気が付いて手を伸ばした。
「ひぁっ…!」
 指先でつぶすようにそれを押さえると、また蜜壺からとろりと白濁の混ざった愛液が溢れてくる。繰り返し達して主の思考も爛れているようで、ひくひくと物欲しそうにひくつく淫らな襞をそっと撫でれば、物欲しそうに腰が浮き上がって俺の指を飲み込もうとした。
「あるじ。」
「んっ、はぁっ、はせべ…っんぷっ…。」
「んっ、ふぅ…っちゅぶ…っ。」
 舌を絡めて吸いながら陰部を弄る。飲み込んだ指の先端をきゅうっと締めて主の膣が蠢いた。上の口も、下の口も、ちゅぷちゅぷと水音を立てていやらしい。久しぶりの主の痴態は記憶にあるよりずっと激しく俺の欲情を煽り、気づけばまた陰茎が腹に当たる感触がした。主から口を離し、腰を見下ろして俺は口元を緩めた。ああ、やっと。
「…あるじ。」
 そっと耳元で呼びかけた俺を、主の濡れた目が見つめ返す。快楽に震えていた瞼がつと持ち上がり、蕩けて潤んだ目がこちらを捉えた瞬間にまたぞくぞくと征服欲が持ち上がった。気取られないよう優しく微笑み、目を合わせたままで唇を重ねる。うっとりと、嬉しそうにその瞳が緩むのを眺め、俺は陰部から指を引き抜いて、その手で主の細い手を掴んだ。そのままそれを、自身の熱に押し当てる。
「…っは…、わかり、ますか…? やっと、元の大きさに戻りました。」
「んぁ…っ、はせべ…おっきぃ…。」
「ええ、大きな俺ですよ…。これでよくやく、あなたを満たすことができる…。」
「はせ…、や、だ…っ、おっきぃの、痛い、から…。」
「ふふ、大丈夫ですよ。今日は小さいのから、少しずつ馴らしたでしょう? さっきのより、ほんの少し大きくなっただけです。大丈夫、気持ちいいですよ…。」
「んぁっ、や、はせ…っ!」
 愛液でぐずぐずの秘所に濡れた先端を押し当てる。溢れる蜜でぬるぬるとぬかるんだその場所は、俺の先端にぴったりと吸い付いて、主の呼吸に合わせて俺を飲み込もうと蠢いている。望み通り、その中へ剛直を突き入れた。
「っぃ、あ…ッ!」
「あるじ、息を、吐いて…っ、吸って…っ、」
 入れた瞬間強張った主の体を優しく撫でて声をかける。先ほどと大して変わらないと思っていたが、強く締め付ける入り口の硬さに、思わず俺も息を飲んだ。懐かしい感触。久方ぶりに、主を貫いた実感が湧く。少し前までのまぐわいなど、遊びに過ぎなかったのだと思い知らせるように、みっちりと主の膣が絡みついてくる。
「痛み、ますか…?」
 恐る恐るそう問いかけると、はくはくと空気を求めていた主が唇を引き結び、遠くを眺める目はそのままにふるり、と首が横へ揺れた。痛くは、ないのか。
「…っはせ…っ、おっき…から、…っくる、し…ぃ…っ。」
「っ、でも、痛くは、ないんですね…っ!」
「んぁっ、だめ…っ、動いちゃ…っ!」
「はっ、あるじ…っ、きつ、…っ。」
「やぁ、お願い…ゆっく、り…、あっ、…あぁっ、あっ…っ!」
 主のお願いなど、いつまで聞いていられるだろうか。腰を這い上がる衝動は、すでに三度も熱を吐いたとは思えないほど、雄を滾らせさらに膨らみを増すようだった。肌がぶつかる荒々しい音がする。奥まで深く、潜れば潜るほど主の熱を感じて、気が狂いそうに心地いい。主がいる。確かにここに。声も、熱も、すべてが俺に主の存在を伝えてくれる。
「あるじ、あるじ…っ、もう、どこへも行かないでください…っ!」
「っあっ、あぁんっ!」
「あるじ…っ、俺はあなたと…っ、もう、片時も離れたくありません…っ。」
「ひぁ…っ、はせ…っ、やぁ、…っ!」
「ずっと、…っ、ずっとお傍に…っ!!」
 主の首元に顔を埋める。腰はこれ以上ないほどに深く繋がっていて、けれどそれでも俺にはまだ物足りない。俺は主の尻の下へ手を入れると、尻肉を掴んで更に俺に押し当てるよう持ち上げた。上から体重をかけて押しつぶしながら、下から腕の力で主の腰を引き寄せる。小さな隙間すら許さず主との接合を深くして、どこまでも一つになりたいのだと、その思いだけを込めて体を抱き締めた。
「あるじ…っ…っ!」
 主の中で熱が弾ける。喘ぐ主の声が耳に響いた。はせべ。名を呼ばれていたことが、いつにも増して嬉しかった。荒い息のまま、主に口づける。気だるい疲労が背筋を登ってくる。名残惜しいが、今夜はこれで終いにしよう。主の負担になることは、俺の本意ではないのだ。


 *** ***


「…ほんとうに、元通りになったのね。」
 熱の冷めない肌を寄せながら、一つの布団にくるまって主を抱き締め、乱れた髪を幾度も指先で梳いていると、主がぽつりとそんなことを口にした。
「ええ。そのようです。」
「やっぱり、大きい長谷部だと、なんだか落ち着くな…。」
「はは、そうですか? 小さい俺も、なかなか評判は良かったですけどね。」
 演練での相手方の反応を思い出して俺が笑うと、主もふふふと優しい笑みを見せてくださった。
「そうね。小さな長谷部も可愛くて…もう見れなくなるのは、少し寂しいかしら。」
「俺がこうしてお傍にいるのに?」
「どちらも長谷部でしょう?」
「そうですが、俺はやはり、大きい方が都合がいいですよ。あなたを守るのに、小さい俺では敵に侮られますから。…それにあなたをこうして抱き締めるにも、やはり力が必要だ。」
 腰を引き寄せて抱き締める力を強くする。顔のすぐそばにある主の額へ口づけ、くすぐったそうに首を縮める主の様子を眺めていた。胸が温かくなる。愛しい人と触れ合うことの幸せを、もう何度感じたか知れなかった。
「主。ちゃんと伝えていませんでしたね。…愛しています。あなたが、無事に戻ってくださって、本当に良かった。」
 失うことの怖さを、待つことの苦しさを、俺は今まで本当の意味で理解してはいなかった。いつかその時が訪れることを、漠然と不安に思うだけで、今もまだ、永久の別れが来ることを、心すべてで怖がっている。きっと達観などできない。こんなにも愛しいこの人を、手放すことなど考えられはしなかった。もしかすると俺は、いつか主を追い求めて、遡行軍に落ちるのかもしれない。それもまた、怖い事だと思うのに。『いつか』の主に、敵としてまみえることなど、あってはならないことなのだ。嫌だ駄目だと思うことが多くて、ちっとも心の整理などつかない。だから、せめて今この時だけは。あなたに触れられる今を、一秒でも長く。
「…主。もう一度、俺に口吸いを許してください。」