泣き方を教えて



 きみの声なら、どんなものでも美しいと思うんだ。
「燭台切。」
「うん。」
「これは、どういうこと。」
 随分落ち着いた声音で、僕の主はそう口にした。肝の据わったことだ。さすがに、血生臭い刀剣を束ねる長だけある。僕が感心していることは、彼女には伝わらない。吐息の一つも漏らさず、ただ口元を緩めるだけの僕の心境など、彼女に伝わるわけがないのだ。――そう、目隠しと手枷でその身を縛られた彼女には。
「どう、と言われてもね。きみが何も見れないように目隠しをして、きみが暴れられないように手を塞いでいる。それだけじゃないかな。」
「わたしが見てはいけないものがあるの。」
「うん。」
「わたしが暴れるようなことが起こるの。」
「うん。…たぶんね。」
 きみが強い人だと知っている。愚かにも人の身を真似て血肉を得た僕達刀剣に、ひとつひとつ人らしいことを教えてくれたのはきみだった。鉄の刃であっただけの僕らが、人の身に馴染むまでのいくつもの失敗を、揺らぐことのない真摯さで支えてくれたのもきみだった。いつだったか、倒した敵の首を血まみれのまま持ち帰った新入りに、悲鳴をあげたのはきみじゃなく他の刀剣だったね。誇らしげに差し出されたそれを両手に受け取って、生真面目に礼を言ってから、きみは戦の功労者に向かって苦笑した。御手杵、これからは頼むから敵の首を持ち帰ってくれるな。困ったようにそう言いながら、きみの口元は笑っていた。そんなきみを見て、僕がどれほど心奪われたか知らないだろう。同時に、きみはいつその喉から悲鳴をあげて涙を流すのだろうかと、僕の中に黒い疑問が生まれたのもその時だった。
 どうすれば、きみの澄ました顔を壊せるのか。
 どうすれば、きみから優位を奪えるだろう。
 僕はね、ずっとそれを考えていたんだ。
「そういえば、知ってるかな。」
「…何を。」
「どこかの審神者がね、刀剣に殺されたんだって。殺したのは長谷部くんだったかな。怖いよね。何があったのかな?」
「余所のことは、関係ないよ。」
「ふふ。きみならそう言うと思ってたよ。」
 こんな陳腐な脅しじゃ、きみには伝わらない。
 僕は静かに彼女へ近づき、目隠しにもひるまず毅然と上げられたその顔へ手を伸ばした。頬に触れる。瞬間、体を固くした彼女の反応を見逃しはしなかった。もしかして、怯えてくれているのかな。嗜虐心にぞくぞくと身のうちが震えて、僕は満面の笑みになる。ああ、きみには見えないんだったね。残念だな。
 触れた肌は少し冷たくて柔らかかった。何度かその肌を撫でた後、手のひらを頭に移動させる。綺麗な髪。つやつやと光って、濡れたように見えるそれは、しっとりと冷えて肌に心地いい。きみを拐かしたのは風呂上りだった。生乾きの髪へ指を指し込めば、後頭部の形の良さが指の腹に伝わった。
「きみ、頭の形が綺麗だね。きっと、ほかの場所も綺麗だろうね。」
 言うなり、僕は後頭部から彼女のうなじへと手を動かした。浴衣の衿に指をかけて力任せに引っ張ってから、弛んだ襟元に手を添わせ、肩口から胸元を一気に肌蹴ける。他愛なく開いた胸元は、肉の薄い痩せた肌だった。もう少し肉付きのいいのが好みだけれど、白い肌は極上の絹のよう。
「ほら、やっぱり綺麗だ。」
「っ、燭台切!」
「色が白いね。これだと、すぐに赤く染まりそうだ。試してみようか。」
 何をと言ったつもりはないのに、彼女もそれを察したようだった。身を捩って逃れようとする肩を掴めば、いとも容易くその体を押さえつけられる。後ろ手に縛った腕が痛くないよう彼女を抱きしめて、無防備な肩口に顔を埋めた。
「燭台切っ!」
 抗議の声など、まだまだ弱い。怒りさえ含んだその声を耳の傍に聞きながら、僕は彼女の肌に口付を繰り返した。強く、弱く、何度か繰り返した後に、舌を出して肌を舐めとると、白い肌が朱に染まった。ああ、いいね。
「やめなさい、燭台切!」
「どうして。もしかして恥ずかしいの? 耳まで赤いよ。」
「うるさい、いいから、はやく離れて!」
「それは嫌だな。」
 だって、やっときみの狼狽える姿が見れたんだ。もっと楽しまなくちゃ、勿体ないじゃないか。
 音を立てて、きみの肌を吸う。ちょっと強めに。そうすれば、きみの肌には花が咲いて綺麗だろう? ああ、見えないんだったね。だったら僕がよく見てあげる。ほら、綺麗だよ。とても。
 ゆっくりときみの肌を舐めながら、首筋から鎖骨へ、鎖骨から胸元へ、僕の舌は動いていく。吐息と口付を唾液の跡にいくつも残して、僕の唇はきみのささやかな膨らみへ向かった。そこは他の場所より幾分柔らかに膨らんで、双丘の先端には小さな蕾がふっくらと尖っていた。その蕾へ舌を這わせた瞬間、腕の中で彼女の体が大きく震えた。
「っぁ!」
 大人しく息を詰めていた彼女の喉から、微かな吐息が漏れた。懸命に歯を食いしばった頬は艶めかしく色づいて、乱れ始めた吐息も含めて随分と扇情的だ。その色づいた唇から、ほんの僅かに漏れた吐息の官能的な響き。耳にした一瞬で腹の底からぞくぞくと快感が湧き上がって、僕ははしたなく下半身を高ぶらせた。
「これが気持ちいいの?」
「っちがう!」
「本当かな。嘘は良くないよ。」
 笑った僕の吐息が、彼女の肌に触れるのだろう。至近距離で震える肌に、僕は無遠慮な愛撫を再会した。舌先で蕾を咥えてみたり、吸いあげてみたり、ちょっと歯を立ててみたり。もう片方の空いた胸を、同じく開いた僕の片手がゆくりと押しつぶして捏ね回す。膨らみはちょうど僕の手のひらにすっぽり収まる大きさだ。指先で先端を摘むように刺激すると、隠せはしない嬌声が彼女の喉から溢れ出た。それは僕の熱をさらに高めて、彼女の肌へ還元される。一度堰を切った彼女の声は、もう抑えることが出来ないようだった。普段は聞くことのできない甘い鳴き声が、細い喉から繰り返し放たれる。僕はもう堪らなくなって、彼女の胸を食みながら、細い腰に巻きついた帯を解きにかかった。湯上りの浴衣姿だ。帯も簡単にしか結ばれていない。容易に解いたその帯を取り去るのももどかしく、乱れた裾へ手を挿し込んで彼女の細い脚に触れた。
 細く滑らかな肌は冷たかった。それとも、僕の手が熱を帯びすぎているのだろうか。帯を解いたことで開いた前合わせの隙間から、彼女の眩しいほどに白い腹が覗いた。その下の茂みも、もう遮るものがない。膝のあたりから内腿に沿って擦りあがる僕の手に、彼女が初めて怯えたような声をあげた。
「燭台切っ!」
 焦って上擦った声が、僕の耳を刺激する。そう、その声だ。もっともっと、僕に聞かせて。
「いやぁっ!」
 温かくぬかるんだ肌に、僕の指が深く沈むように触れる。驚くほどやわらかい。ざらざらとした茂みも愛液にべったりと濡れて、彼女が僕の愛撫に感じていたことがよく分かった。
「あっ、いや…っ、やめて…っ」
 僕の指が敏感な裂け目に触れる度、彼女の哀れなほど艶めかしい声が耳を打つ。乱れた呼吸と、喘ぎの中に、僕への懇願が混じり始めたのには驚いた。やめて。ゆるして。しょくだいぎり。そんな言葉が何になるだろう。僕の中の雄は既に猛り狂って、きみを貪り尽くすまで止まりはしない。僕がきみの雌の皮を剥いで、ぐちゃぐちゃに支配して壊してあげる。だからもっと、僕にきみの全てをくれないかな。
「可愛い声が出るようになったね。」
 彼女の羞恥を煽るように、片腕で抱き締めていた彼女の耳へ顔を寄せた。その間も、もう一方の手は彼女の陰部を刺激し続けている。
「気持ちいいよね? こんなに濡らして、嫌だなんてどの口が言うの?」
 皮の手袋に彼女の愛液が滲みて、僕の指まで濡らし始めた。けれど僕の指は止まらない。あえてぐちゃぐちゃと卑猥な音を立ててその場所を掻き回すと、彼女の目隠しに涙が滲んだ。それを見て、僕の狂った感情が驚喜の雄叫びをあげる。余計にきつくなった腰の熱がどうにも苦しくて、僕はとうとう自分も服を脱ぐことにした。一度彼女から体を離し、濡れた手袋をまず外す。思い立って指先を嗅ぐと、それはもう彼女の雌の匂いに染まっていた。眩暈で視界がくらくらしそうだ。上着もシャツもズボンも下着も。すべて取り払うまでのわずかな時間、投げ出された格好で横たわった彼女は、肩で息をしながらも目に見えて安堵の表情を浮かべていた。
 泣いたから解放されたとでも思っているのだろうか。本当に可愛いね。膨らんだ熱を持て余したままの雄が、ぶるぶると震えて先端を濡らし始めている。彼女の全てを僕のものにしたくて、乱暴な叫びをあげているようだった。
 横たわる彼女の、白い膝に手をかける。乱暴に脚を開かれた彼女が、一瞬でその顔に恐怖の色を張り付けた。やっぱり、解放されたと思っていたんだね。そんなこと、あるはずないじゃないか。
「手、痛いかな?」
「…燭台切…。」
「解いてあげるね。きみが暴れたくらいじゃ、僕はびくともしないんだし。」
 最初は面倒だから縛っていただけのこと。弱々しく僕に組み敷かれているきみを見たら、それも可哀想になってきた。手首を戒めていた縛りを解くと、擦れた肌が赤くなっていた。
「ごめんね。」
 僕は一層優しく笑いながら、傷ついた手首に唇で触れた。手のひらにも、手の甲にも、指先にも、繰り返し唇で触れて、その後で一本だけ。指の先端を口に含んで小さく吸い上げる。汗ばんだ指先は、一瞬しょっぱい味がしたけれど、すぐにそれも消えて熱い温度が舌に触れるだけになった。
「ん…ふ…。」
「しょく、だいぎり…っ」
 彼女が指を引こうとしても、掴んだ僕の手が許さない。片手の指を順番に咥えて、根元から指先まで全部舐め終えた後、僕は興味を失ったように彼女の手を放り出した。そして彼女の開いた脚の間に腰を進める。太腿に直接触れる肌の感触で、彼女にも僕が裸だと分かっただろうか。
「目隠しはそのままにしておくよ。見えないほうが、感覚が鋭くなるっていうから。きみには、僕のこと目一杯感じて欲しいんだ。」
 答える声はない。わずかに開かれた唇が、慄くように震えている。それを見たらもう少し意地悪がしたくなった。僕はさっき投げ出した彼女の手をもう一度拾い上げて、自分の腰へ導いた。僕の唾液で濡れた細い指に、猛った熱を擦り付ける。
「ははっ、すごいでしょ? きみのせいでこんなになってるんだよ。」
 見せられないのが本当に残念。こんなに太くて、熱くなったの、初めてじゃないかな。
 彼女の白い指に、残酷なほど張りつめた昂ぶりを押し付けると、怯えた彼女の喉が震え、聞き取れないくらい小さな声がこわいと呟いた。やめて、燭台切。いっそ可哀相なくらいに弱々しい声。それが更に僕の欲情を駆り立てていることに、彼女は毛ほども気づいていない。
「悪いけど、やめないよ。」
 先走りで濡れた彼女の左手の指に、自分の右手をゆっくりと絡めていく。安心させるようにそっと握った後、左手で彼女の細腰を引き寄せた。濡れた彼女の秘部に、僕の熱が触れる。竿の側面にぴったりと吸い付いたその場所から、得も言われぬ快感が湧き上がって自然と腰が揺らいだ。
「あっ…!」
「っふ、…本当は、指とかで慣らしたほうが、いいんだろうけど、」
 性器同士を擦り合わせて腰を動かすと、彼女の膝がぴくぴくと軽い振動に震え始めた。繋いだ片手にかかる彼女の握力がぐっと強くなって、開いたままの唇の隙間から、赤い舌が覗くのが見えた。小刻みに喉を震わす、わずかな喘ぎ声。性器の合わさる音はそれよりもっと大きくて、僕と彼女を耳から犯して狂わせていく。少しずつ高まった熱が、弾ける寸前まで膨らんでとろとろと彼女の腹を濡らした。
「…だめだな。もう、我慢できない。」
 ぬるぬると濡れた先端に指を伸ばす。滑りそうになるその先を押さえて、彼女の窪みへ先端を合わせた。彼女が状況を理解するより先に。腰を進めて一気に奥まで突き上げた。
「ひぐ…っ、っ!!!」
「あぁ…っはぁっ…、…は、はははっ」
 悲鳴をあげて全身を強張らせた彼女の上で、僕は恍惚の表情を浮かべた。思わず漏れた自分の熱い吐息に笑ってしまう。きつい入口は僕をぎゅうぎゅうと締め付けて苦しいけれど、その先の肉の熱さと緩い柔らかさが気持ち良くて堪らなかった。これがきみの体。きみの熱。今きみと繋がっているのは、他の誰でもない。この僕だ。
「い、た…いっ、燭台、切…っ、いや、抜いて…っ!」
「待って、いま、」
 無理矢理押し込んだその場所は、確かに入口が窮屈だった。彼女からしてみれば、身を裂かれるほどの痛みなのだろう。ぶるぶると肩を震わせているのが、痛みを堪えるためかと思うといじらしくて愛しくなる。短い呼吸を繰り返す彼女の唇から、よだれが垂れて頬を伝っていた。だけど、僕にとっても、この刺激は強すぎたんだ。
 ぞくりと、背中のほうから震えが走った。低く呻いた僕は彼女の太ももを強く引き寄せると、躊躇いなく彼女の中に熱を吐き出した。身のうちを熱が去っていく。達した瞬間の震えるような心地よさ。喉の奥から喘ぎ声を漏らして、僕も束の間目を閉じた。余韻が薄れ、体の下で茫然としている彼女に意識が向くまでに数秒。
「ごめん、我慢できなかった。」
「…なか、で、…」
「ああ。もしかして、妊娠の心配かな? だったら、大丈夫。僕は刀だ。人の成りをしてみても、僕の精に命の源はないよ。」
 そうだ。僕らは本当の意味で交われない。どこまで行っても僕は刀できみは人。触れ合う肌の熱も、柔らかさも何もかも、ただいっときの幻に過ぎない。だから僕は、少しでもきみに近づきたいんだ。普通の男がするようにきみを抱いて、きみの体に傷を残す。束の間の制圧。ただそれだけでしか、僕が触れた跡を残せないというのなら、きみの全身に傷跡を残そう。その心にも、深く僕を刻み付けて、この一瞬が泡沫に変わらないように。
 今更のように、僕は彼女の負担が少ないよう、ゆっくりと腰を引き戻して萎えた陰茎を引きずり出した。うっすらと赤い色が見えるのは、処女膜を破った証だろう。ぞくりと、腰が震える。垂れ下がった先端が、わずかに上向いたのが分かった。痛みから解放された彼女の膣口が、ひくりと一度、引き攣れたように震えた。
 ――ああ、堪らない。
 僕は半勃ちになった先端を彼女の入口にあてがって、そのまま無理に押し込んだ。まだ二度目の挿入だ。慣れない違和感に彼女の喉が悲鳴を上げた。
「燭台切…っ!」
「力、抜いて。ちょっとずつ、慣らしていこうね。」
 腰を叩きつけたくなる衝動を抑え、僕はゆるゆると腰を動かした。強張った彼女の体を労わるようにゆっくり。痛みがあるのは、入口の狭さのせいだろう。腰を引くと、僕を飲み込んで限界まで引き延ばされたその場所に、雁首が引っかかる。それくらい狭いんだ。でも中はずっと広くて柔らかい。僕は体勢を低くして、彼女に覆いかぶさるように体を沈めた。彼女の中に潜っていく。ずっと奥の、突き当りを押し上げるように。
「あっ、だめっ、燭台切…っ!」
「奥まで届いたね? ほら、触れてるのが分かる? ここがきみの子宮口。」
「ふぁ…っ!」
「じゃあ、もう一回。」
 一旦腰を引いて、また戻して。彼女の目隠しはもうずっと涙に濡れている。汗と涙で張り付いた髪をかき上げて、その目元に唇を寄せる。時々、震える唇同士を重ねてみたりもした。舌を挿し込んでも、碌な抵抗のできない彼女は、僕にされるがまま唾液を顎まで垂らして喘いでいるだけだけど。そのうち、彼女の喉から漏れる声に、挿入当初とは明らかに温度の違う音が混ざり始めた。最初の愛撫に漏らしていたような、甘ったるい蜜のような響き。僕の雁首がある場所を擦りあげた時、彼女の膣内がきゅうと締まるのも感じた。いい場所が見つかったみたいだ。重点的にその場所を責めると、彼女の反応は露骨に変わった。
「んぁっ、あぁっ、だめっ、そこ、だめっ…!」
「だめじゃない。気持ちよくなってきたでしょ。ねぇ、もっと僕を感じて。」
「ひぁっ、しょく、だ、い、ぎり…っだめ、おかしく、なっちゃ…っあぁっ!」
「大丈夫。おかしくなってもいいよ。ほら、ここだよね?」
「あっ、あぁっ、いやっ、きもち、い…!」
 聞いた? 気持ちいい、だって。
 人の体は本当に上手くできている。痛みだって何度も繰り返せば慣れるし、それより強い刺激を与えてやれば、相対的に痛覚は鈍る。今の彼女がまさにそれだ。痛みも羞恥も嫌悪もすべて。僕が与える快楽に上書きされて、彼女は既に理性を手放しはじめていた。獣らしい衝動。雌本来の姿を晒して、浅ましく僕の陰茎を咥えこんだまま喘ぐ姿は、普段の彼女から想像もできないほど淫らで美しかった。
「あぁっ、しょくだい、ぎり…っ! へんっ、へんなの、きちゃう…っ!」
「どうしたの、かな。」
「わかん、ない…っ! あっ、んっ、でも、なんか…っ」
「っ!」
 きゅうう、と彼女の膣が大きく収縮した。予想外の刺激に、僕までつられて達してしまう。蕩けきった顔で彼女が唇をわななかせるのを、僕は射精しながら間抜けな顔で見下ろすことしかできなかった。びくびくと震える彼女の膝に手をついて、萎んだ自身を引き抜くと、冴えた空気に濡れた先端が晒されて冷たかった。
「酷いな、勝手にいくなんて。しかも僕を道連れにして。」
 果てたばかりの彼女に、僕は素直に文句を言った。返事のない唇へ、深い口づけを落としても彼女は妙に大人しく、抵抗を忘れた体は茫然と畳に投げ出されたまま、脱力しきって完全に力を失っている。
「ねぇ、どうかな。少しは楽しめた?」
 それでも彼女は返事をしない。嫌われたかな。まぁそれでも、僕は一向に構わないけれど。
 投げ出された白い肢体。汗で濡れて、愛液にまみれた、卑猥なきみの雌の本性。それをこの身で証明できたことが、僕の生涯の誉れになりそうだ。これからもずっと、僕はこの唯一の目できみの姿を見続ける。取り澄ました表情が、だらしなく蕩けるのを知っている。凛とした声が、みっともなく喘ぐのも知っている。きみが誰にも見せたことのないあらゆる姿をこの目に納めて、これからも僕はきみの隣に居続けよう。
 そうだね。次は、どうしようか。
 怯えて泣き叫ぶきみを、見てみたいな。