へし切長谷部に甘い顔をしてはいけない



 ある日突然、へし切長谷部が大太刀化した。混乱する私や他の刀剣をよそに、本人は至って涼しげな顔をして、無感動にあたりを睥睨していた。慎み深く几帳面で甲斐甲斐しい、そんな印象を持っていた打刀の長谷部とは打って変わって、大太刀の長谷部は自由だった。他の刀剣に言わせると、打刀の長谷部も私がいないところではこれくらい自由だったらしく、私よりも刀剣たちの方がよほど早く大太刀の長谷部に慣れてしまったのには閉口した。身長がさらに高くなり、立派な体躯は日本号と並んでも遜色ない。きっちりとした詰襟のカソックを身にまとって、短い髪を後ろに撫でつけた長谷部は威風堂々としていた。短すぎて上がりきらなかった前髪が凛々しい眉を覆い、それでやっと雰囲気が和らいで見える。物言いは端的で威圧的でもあり、体格の大きさもあって、最初の頃の私は大太刀の長谷部を前にすると、なぜだか萎縮してしまったものだった。
「何なのだ、あの程度で撤退とは。相変わらず、ぬるい事をする」
 打刀の長谷部なら、首を括っても口にしないような言葉を、大太刀の長谷部はするすると声にした。特に戦の采配に関しては褒められたためしがない。戦績の報告を終えた後は必ず策についての意見を聞かされ、次の戦では善処するように、と小言をくらうのが常だった。決して私に迎合せず、自身の意見をはっきりと口にする大太刀の長谷部に会って初めて、私は打刀の長谷部に随分と甘やかされていたことを知ったのだ。
 けれど、大太刀化した長谷部と過ごしてしばらく、分かったことがある。何もかもが打刀の長谷部と違っているように思えて、その実、彼は間違いなくへし切長谷部だった。中身は変わらないのだから当たり前なのだが、時折彼の仕草や言葉に触れると、打刀だった頃の面影が浮かんで見えることがあった。なにより彼は、近侍の座を退くことを良しとしなかった。主、主と慕ってくれていた打刀の頃と比べ、長谷部の私への評価は辛辣である。そのくせ、近侍を変えようとすると、雄々しい眉をぎゅっと寄せて渋るのだからおかしかった。乱暴な口調は相変わらずなのに、最近はよく笑うようにもなった気がする。打刀の長谷部からすると、大太刀時代はいわゆる若いころにあたるのだろうか。そう思うと、普段と比べて気持ち素直な彼が可愛く思えた。
「主」
 低く落ち着いた声で私を呼びながら、長谷部は高い位置から私を見下ろしてくる。私はそんな長谷部と目を合わせるために、思いきり首を曲げねばならなかった。至近距離で見上げ続けると首が痛くなるのだが、目を逸らしたままで返事をすると、この長谷部は拗ねるのだ。
「どうしたの?」
「裏山の紫陽花が見頃だと歌仙が言っていた。気晴らしに今から見に行くか? …いつだったか、花が好きだと言っていただろう。ここの庭には、桜以外にあまり花がないからな」
 なんでもないことのように、私の些細な発言を覚えていてくれる。彼は打刀の時分に話した内容もよく覚えていたし、仕事のできる有能さも変わらず長谷部のなかに息づいていた。打刀と大太刀。刀種が違って、人格もまるで違うように思えるけれど、彼らは同じ長谷部なのだ。初めの驚きが過ぎてしまえば、大太刀の長谷部がいる生活も、打刀の長谷部がいる頃とそう変わらなかった。こんのすけが言うには、刀種変化は稀ながら前例があり、そのどれもが唐突にもとの刀種へ戻っているという。いつか大太刀の長谷部も打刀に戻る日が来るということだ。それならば、いまこの素直な長谷部に、聞いてみたいことがあった。打刀の長谷部には、曖昧な笑みで流されてしまった質問を。
 ――ねぇ、長谷部。何か私にしてもらいたいことはない?


   *** ***


 その日長谷部を隊長とした第一部隊は、厚樫山に向かっていた。他は短刀ばかりの隊列で、長谷部より少し錬度の落ちる短刀に経験を積ませることが目的だった。けれど、戻ってきた部隊の中で、最も怪我が酷かったのは長谷部だった。突如現れた検非違使から逃げる際に、しんがりを務めたのが長谷部なのだという。生存値の低い短刀を無事帰すため、長谷部は自ら検非違使の前に立ったのだと五虎退から聞かされた。長谷部の受けた傷は深く、折れる寸前の酷い有様だった。なんとか追撃を免れたものの、長谷部は意識を失ってしまい、それをようよう引き摺るようにしての帰還だったのだ。
 手入れ部屋に横たわる長谷部のそばで、私は手持ち無沙汰にその煤色の髪を眺めていた。美しい紫の瞳は瞼に隠されて、いまは白い陶器のような肌が滑らかに続いている。端正な顔立ちが、大小の傷を受けて痛々しかった。
「無茶するね…」
 仲間のために体を張って戦えるのは素晴らしいことだ。だけど、それでこんなに傷だらけになられるのは辛かった。
「…起きたらお説教だからね、長谷部」
 起こさないように、柔らかい髪をそっと撫でていく。いつか打刀の長谷部の頭を撫でたときと同じように、手触りのいい髪だった。

 *

 ふと目覚めると、なんだか妙に温かかった。ここは手入れ部屋だ。薄暗い部屋の中で、ぼんやりと瞬きする。どうやら長谷部を見舞ったあと、そのまま眠ってしまったらしい。まどろみの中で寝返りを打とうとして、自分が横たわっているのが、布団の中だと気が付いた。背中に誰かの体温がある。大きな腕に抱き締められて、寝返りが打てなかった。急速に眠気が薄れていく。恐る恐る背後を振り返ると、間近に紫の瞳があった。
「起きたのか」
 それはこっちの台詞だ。行燈の灯りをはじいて、きらきらと光るような目が真っ直ぐに私を見ている。崩れた前髪に半分遮られた視線が、それでもずっと私に注がれていたことをその気配で知った。回復の兆しに一度ほっとして、またすぐ胸が跳ねてしまう。長谷部がぎゅっと、私の体を抱き締めたのだ。
「は、長谷部!」
「ああ」
「あ、あの。えっと、怪我の具合は、どう?」
「…もう随分楽になった」
「そ、そっか。良かった」
「…主は、なぜここで寝ていた? 目が覚めた時、畳の上に倒れていたから、危うく叫ぶところだった」
 この長谷部が叫ぶなんて。そうそうお目にかかれない光景を思い浮かべていると、すり、と長谷部の頭が後頭部に触れた。うなじに顔を埋めるように、長谷部が体を寄せている。硬直した私に気付いているのかいないのか、長谷部は深く長い息を吐いた。背中に当たる熱い吐息で、私の体温まで上がる。
「合戦場からの、記憶がなかった。…まだ敵と斬り合っている最中に、意識をなくしたからな。…それで、目覚めたら、主が倒れていて」
「長谷部」
「…すまん、もう少し…」
 ぎゅっと抱き締められる。子どものように縋りついてくる長谷部に、少し胸が苦しくなった。
「…驚かせて、ごめんね」
「ああ、まったくだ」
「あはは。…あ、そうだ。長谷部にずっと聞きたいことがあったんだけど、聞いてもいいかな」
「なんだ」
 僅かに顔を上げて、訝し気に長谷部が首を傾げる気配がした。
「あのね、何か私にしてほしいことはある? ずっと前にも、一度聞いたことがあったでしょう? でもその時は、なにもありませんって言ってたよね」
 曖昧な笑みを浮かべて、打刀の長谷部は首を横に振ったのだ。自分からは何も望まず、私が与えるものだけを受け取っていつも穏やかに微笑んでいる長谷部。それで満足しているなんて、どうしても思えなかったから聞いたのに、結局長谷部の望みは教えてもらえなかった。
「私にできることなら、お詫びの代わりにしてあげる。遠慮しないで言ってみて」
「…そうか、わかった」
 顔が見えないから、言いやすいかもしれない。そう思って、長谷部の言葉を待っていると、ごく静かな声が聞こえた。
「…俺だけを、見つめてほしい」
 ぎゅっと、私を抱き締める腕に力がこもった。
「俺だけに笑いかけてほしい。俺だけを頼ってほしい。もっと俺に触れてほしい。俺も思うさま主に触れたい。唇の味を確かめたい。体も、その内も、何もかも」
「はせ、」
「ずっとだ。ずっと思っていたことだ。いつも背後から、俺がどんな顔でお前を見ていたか、知らないだろう? …遠慮だと? ハ、打刀の俺に感謝するんだな」
 すっと、大きな手が目の前を塞ぐ。確かめるように鼻に触れた指先が、するりと滑って私の口を塞いだ。
「愛玩用の犬にも牙はあるというのに、哀れなまでに無防備だ」
「っ!?」
「は…、温かい…」
 大きな体が圧し掛かるように動いて、長谷部が私に覆いかぶさる。私の口を塞ぐ手の甲に、長谷部が唇を押し付けてきた。てのひら越しに、キスをされたような錯覚。私は正面を見据えることができずに強く目を瞑った。全身で感じる重さに押しつぶされそうになる。息が苦しい。
「ん…っ、うぅ…っ!」
「主。俺の望みを、叶えてくれるんだろう?」
「っ!」
「…まったく、無防備で愛らしい」
「!?」
 まさか長谷部の口から『愛らしい』なんて言葉が出るとは思わなくて、それも自分を形容して言われたことに驚いてしまって、一瞬抵抗するのを忘れたのが間違いだった。その隙を逃さず、長谷部の手のひらが外れ、代わりに唇が直に触れてきた。
「ん…っ!」
「ちゅ…」
「んぅ…っ」
 こういう所作を、どこで覚えてくるのだろう。頭を掴まれ、さらに身動きができなくなった私の口腔を、歯列を、長谷部の舌が蹂躙する。息苦しさと恥ずかしさで頭の中が塗り潰されて、長谷部の吐息が触れるたびにどくどくと心臓がうるさくなった。力の差は歴然。掴まれた腕も体も、振りほどく術がどこにもない。
「はぁ、甘いな。…どうして、主の口はこんなに甘いんだ?」
「っは…っ、…っ」
「はは、まさか初めてか? 存外、初心な反応をする」
 どこか楽しげに笑って、長谷部は手袋をしたままの手で、そろりと私の喉を撫でた。剥き出しの肌に布の感触がくすぐったい。身を縮めても拘束は緩まず、長谷部はそのまま私の肌を撫で続けた。布団の中で、僅かに自由のきく脚を動かそうとすると、着物の裾が乱れて肌触りの違う布に脚が触れた。長谷部のスラックスだ。やけに鮮明な感触に慄いたとき、長谷部がしゅるりと帯締めを解いてしまった。きつく締まっていたはずの帯に手を掛け、力まかせに緩めようとしている。
「な、何するの…!」
「愚問だな。分かっているんだろう? 本当に嫌なら、いますぐ俺を折れ」
「…っ!」
「出来ないか? …そんな態度だから、俺に付け込まれるんだ」
「っあ…っ!」
「まぁ、いいように俺に嬲られて、純潔を散らすのも悪くはないと思うがな」
「なん…あっ、やめ…っ」
「ああ、柔らかい体だ…」
 崩れ始めた着物の襟に手を突っ込んで、襦袢の上から肌を撫でられる。この状態でどうやって長谷部を折れというのだろう。口では私の意思を試すようにしながら、その実、長谷部の体はびくともしない。初めから選択肢などなかった。着物は次々に剥がされ、とうとうあとは肌襦袢一枚である。身八つ口から覗いた肌に長谷部の手袋の先が触れ、さわさわと脇を撫でていった。抵抗などする暇もなかった。緩く結ばれていた肌襦袢の上の紐を、長谷部が口で解いてしまう。これでもう、遮るものが何もない。裾除けは腰に巻き付いたままだったけれど、乱れた裾は太ももまで露わであまり意味を成していなかった。剥き出しの膝に長谷部の手が触れ、それがついと太腿に移る。大きな手のひらの熱を感じて身震いした。
「震えているな。…怯えているのか」
 聞きようによっては優しい声が長谷部の唇から零れていった。だからといって、行為をやめるつもりはないらしい。口で肌襦袢の端を咥えた長谷部が、大きく頭をのけぞらせる。布団の中、長谷部との体の間にできた薄闇の中に、遮るもののない胸元が晒された。せわしなく上下する双丘を見下ろして、長谷部は無感動に目を瞬いた。
「…俺に愛されて、可哀想に」
 囁くように呟かれた。その言葉が耳に届いた時には、長谷部の唇が胸の先を咥えていた。肌に響くその刺激は恐ろしく官能的だった。だから余計に恐怖を感じてしまったのかもしれない。身を縮めて長谷部の愛撫を拒もうとしたけれど、自由になった手でどれだけ長谷部の体を押し返そうとしてみても、まるで無駄な抵抗だった。屈強な体躯に抗えるはずもなく、なすすべもなく恥ずかしい行為を強いられる。ぺろぺろと犬のように肌を舐めて、赤子のように先端を吸って、長谷部は的確に私の情欲を煽っていった。
「や、やだ…っ、いや…っ、はせべ…っ、やめてっ」
「やめて? ここは随分と、物欲しそうにしているが?」
「いやっ…っ!!」
 裾除けの中に差し入れられた手が、その場所に触れる。下穿きの上から遠慮なく揉まれた恥丘の奥が、じっとりと湿っているのは自分でもよく分かっていた。
「はしたない女だ」
「っや、触ら、ないで…っ」
「腰を揺らしながら言う台詞ではないぞ」
「っん…っ」
「どうした、気持ちいいのか?」
 恥ずかしい言葉ばかりを、耳元で囁かれる。うるさい心臓の音に、くちゅくちゅと混ざるのは、熟れて蕩けた私の秘部からの音。手袋をしたままの男の指が、下穿きの隙間から差し入れられて、直に襞を弄っている。きもち、いい。思わずそう感じてしまうほど、熟れた陰部からの刺激は強かった。逃げられないままにその場所を弄り続けられ、我慢の甲斐なく長谷部の服にしがみ付いて達してしまう。
「は…ぁん…っ、んっ」
「ふ、蕩けてきたな」
 手袋が濡れるのにも構わず、長谷部の愛撫はエスカレートした。散々解して蕩けた蜜壺につぷりと指先が入り込む。手袋をしたままの指で、膣内をゆるゆると犯された。
「やっ…、やだ…っ、抜いて…っ、て、手袋…っ!」
「ああ。直接、がいいのか?」
「い、…っちが…っ…っ!?」
 愛液に濡れた手袋を外して、長谷部の太い指が直接中に入ってきた。遠慮など欠片も感じさせず、勢いよく長い指を奥に推し込まれる。生の指はスムーズに根元まで突き刺さり、その後もじゅぷじゅぷと出し入れが繰り返された。指の付け根が膣口に当たる感触がした。
「やだ…っ、いやっ、はせべ…っ、いやぁ…っ」
 拒みたいはずなのに、哀願する自分の声はどう聞いても甘ったるい。淫靡な行為で乱れた呼吸が、それに熱を加えて長谷部の耳に届けてしまう。更なる行為を期待していると思われても仕方がない声だった。これでは長谷部を煽るだけだというのに。
「んふ…っ、んっ…っ、んんっ!」
 いつの間にか、指の数が増えていた。狭い入り口をこれでもかと広げられ、裂けるような痛みに涙が出る。それでも私の泣き声は長谷部の熱を煽る効果しかないようだった。先ほどより余程興奮した面持ちで、長谷部は指を出し入れしている。太い指が引き出されるたびに、とろりとろりと愛液が滴っていく。溢れる体液は、この痛みを伴う行為から、自分の体を守ろうとする不随意の反応だ。まったく感じていないわけではないけれど、触れられて喜んでいるわけでも決してない。それを説明したいのに、長谷部の愛撫が激し過ぎて何も考えられなくなる。
「そんなに気持ちいいのか、主? 布団まで濡れているぞ?」
「はっ…あぁっ、あ…っ」
「もう口答えも出来ないのか」
 体が熱い。長谷部が熱を高めていく。もう放して、こんなことはやめて。与えられる刺激の強さに思考がぐちゃぐちゃで追いつかない。泣きながら喘ぐことしかできない私の、その呼吸まで飲み込むように長谷部が口付けてくる。深く舌を絡められ、膣から引き抜かれて濡れた指で肌を撫でられた。脇を、腰を、太ももを。思いのほか優しい手つきで幾度か撫でて、長谷部は私の太ももをゆっくりと持ち上げた。
 長谷部の体を挟むように、大きく脚を開かされる。私の股座へ長谷部が腰を寄せてきた。スラックスの前が恐ろしいほどに張り詰めて盛り上がっている。それが何かを考えたくはなかったけれど、長谷部はものも言わずスラックスの前を開いてみせた。
 見なければ良かった。心底、そう思うだけの大きさに唾を飲み込む。それは存在自体が暴力のような大きさで、太い長谷部の親指を二本合わせたよりもまだ太かった。剛直と呼ぶにふさわしい雄は、重そうな首を高々と持ち上げていた。
「どうした。初めて見るわけでもあるまい?」
「……」
「ああ、違うのか。初めて、だったな?」
 拒絶の意をもって、ただ首を横に振る私を見下ろし、長谷部は剥き出しの陰茎を私の秘裂に擦りつけてきた。
「…っ!?」
 ごりごりと恥丘まで擦る太い竿に、陰毛が絡まって引っ張られる。長谷部の体格に見合ったそれは、私のおへそを越える長さだった。太さだけでも恐ろしいのに、こんなに長いもので突かれたら、お腹が破裂してしまう。
「や、やだ…っ、こんな、大き…っ」
「慣らせばいい」
「な、慣れない、よ、…っ!」
「試してから言え。おい、暴れるな」
 さっきは自分を折れとか言っていたくせに! がっちりと腰を抑えられ、逃げられなくなった。その場所に宛がわれた雄の熱さと太さと硬さが、怖い。
「いやっ、いやぁ…っ」
「そろそろ黙れ」
「あ、っあ゛っ…ぁっ!!」
 抵抗も虚しく、ぐぷりと、太い熱を押し込まれた。巨大な体に押しつぶされて、重さと痛みに喉が引き攣れる。本当に体が裂けるのではないかと思うほどの痛みで、なぜか眼球の奥が熱くなっていった。長谷部は私の体をしっかりと抱き締めたまま、じわじわと極太の陰茎を捩じ込んでくる。
「い゛…あ゛っ!」
 痛い。痛い痛い痛い。お腹の中から破れてしまいそう。根源的な恐怖が胃の奥から這いあがって、ひしゃげた声で喘ぐ私の喉元を通りすぎていく。内臓を押し上げる圧迫感は指の比ではなく、このまま体を内側から潰されてぺしゃんこにされるのだと思った。心臓と肺が下からぐうぐう押しあげられ、うまく息ができない。
「は…、あるじ…っ」
 強張った体をぶるぶると小刻みに震わせていたら、掠れた声で長谷部が喘いだ。恍惚の表情を僅かに歪ませ、涙でぐちゃぐちゃの私を見下ろして、興奮に肩を弾ませている。荒い呼吸で長谷部の体は激しく波打ち、その振動が繋がった場所へ響いていく。特段腰を動かしてもいないのに、その振動だけで私の体は揺さぶられてしまう。悲鳴を上げる前に、唇を塞がれた。
「んぐ…っ、ぅっ…!」
 べろりと唇を舐められ、垂れていた涎を舌先で拭われる。身を捩ろうにも、貫かれた体は固まったように強張って、思うように動かせない。圧迫されて縮んだ肺が、浅い呼吸で空気を吸いこもうと必死だった。長谷部の動きになど、構っていられない。苦しい。余裕なんて欠片もなかった。でもそれは、長谷部も同じだったらしい。まったく無遠慮に突き入れられた竿が、とうとう奥まで突きあたる。休む間もなく、今度はそれを徐々に引き抜いていく感触がした。
「あぁ…っ!?」
 それまでとは逆の方向へ、内壁が擦られていく。挿れられるときより、引き抜かれる時のほうが擦れる感触が鮮明だった。あの大きな亀頭が引っかかっているのだろう。慎重に腰を引いていく長谷部の動きが、じれったいほど遅くて痛い。いっそ、ひと思いに抜いてくれればいいのに。気を遣っているつもりなのだろうか。
「っは…っあ…っ!」
 入り口の狭い場所に、エラの張った長谷部の雁首が本当に引っかかり、強く引っ張られる痛みにまた涙が溢れてきた。きっとどこか裂けているに違いなかった。被害を確かめたいのに、そうするだけの余裕もなかった。
「あ…っ、やだ…っ」
 再び長谷部が中に潜ってくる。先ほどよりやや速度をあげて、内側を抉られるような感触が奥へ響いていく。硬い竿に擦れられた秘肉から、ぞくぞくと痺れるような感触がする。頭がおかしくなる。体が壊れてしまう。怖い。痛い。もう、やめて。
「いや…はせ、べ…っ、たす、けて…っ、たすけ…っ」
 嗚咽が、喉に引っかかる。ぼろぼろと止めどない涙で部屋の天井が滲んでいた。長谷部。打刀の長谷部。優しくていつも私を助けてくれた長谷部なら、こんな無体は働かないのに。助けて。
 何度も、何度も長谷部の名前を呼んでいた。それが自分のことではないと、大太刀の彼は気づいたようだった。ぐんっと、急に腰の速度が速くなった。
「あ゛…っ!?」
「あるじ…っ」
「あ…っ、あぅ…っ!」
「誰を、呼んでいるんだ…っ」
「ひぃっ!」
「俺が、お前の長谷部だぞ…っ!」
 言うなり、ごつ、っと最奥を押し上げられた。長く太いそれで、子宮の入り口をこれでもかと突き上げ、そのままぐっと体重をかけられる。衝撃で体が跳ねるように揺れたのも束の間、次いで勢いよく竿が引かれ、肉壁を絡ませたそれで激しく体が引きずられる。じゅぱ、じゅぱっ、と愛液を飛ばすほどの荒々しい抽挿で、長谷部の熱の高さを思い知らされる。奥を突かれるたびに、滑稽なほど激しく体が反応していた。
 裂けるような痛みと、突かれる痛みを交互に与えられて、もう声を出せなかった。息をするのがやっとで、瞼も開けられない。一度、少しだけ開いた視界に、熱っぽい長谷部の顔が写って苦しかった。体を揺さぶる振動が、強く、激しく、間隔を短くしていく。翻弄されるだけの肉塊になった気分で、私はただ涙しながら長谷部の律動を感じていた。
「俺の、主…っ!」
 噛みつくようにキスをされ、抱き締められたままで腰を密着させられる。長谷部が低く喉を鳴らした時、熱い何かが膣内に注がれるのが分かった。果てないと感じるほど長い吐精。人ではあり得ないほどの大量の精液は膣に納まらず、恥ずかしい音を立てて繋がった場所から溢れていった。
 どこか子どものようだと思っていた。けれど違った。雄々しく、荒々しく私の性を蹂躙する。大太刀のへし切長谷部は、ただの男だったのだ。


   *** ***


 一度体を重ねた後は、長谷部の遠慮がなくなった。いや、大太刀の長谷部には、最初から遠慮などなかったのだけれど。
 長谷部は手入れ部屋に入るたび、時には手入れが不要なときにも、私を連れ込んで抱こうとする。初めての行為が乱暴だったことで、性行為に対する私の意欲は限りなく低かった。だから長谷部が私に行う行為がたとえ気持ちのいいものであっても、必ず反射的に拒絶してしまう。拒めば酷く抱かれると分かっているのに、私は彼への抵抗をやめられなかった。屈服すれば、きっと楽になれるのに。どんなに抗ってもどうせ無理矢理抱かれるのなら、最初から大人しく脚を開いて長谷部のものを受け入れればいい。そう思うこともあったけど、いざ長谷部に触れられると怖くて頭が真っ白になった。
 そのうち場所も手入れ部屋に限られなくなっていった。廊下や、物置や、使われていない座敷の中で、繰り返し長谷部の雄に屈服させられた。私たちの体の関係を、他の刀剣たちもうすうす気づいていたに違いない。誰も何も言わないのは、それでも閨の外での長谷部はよく働く一振りの刀で、私もそんな彼を近侍から外すことがなかったからだった。距離を取ろうと考えたことは一度や二度ではないけれど、その度あの紫の瞳が見透かすように私を見つめて言い出せなかった。閨の中での長谷部は、ある意味普段よりずっと優しい。普段は私に遠慮もなく不遜な態度を取る癖に、閨で私がどれだけ彼とその行為を拒絶しても、長谷部のほうから私に文句を言ったことは一度としてなかった。私を抱く動作の一つ一つが乱暴になるのは、きっと私の言葉と態度に傷ついているからなのだろう。行為の最中に、私へ投げられる言葉はいつも、私を求めるものばかりだった。私が少しでも感じていることを確かめ、私が少しでも長谷部を欲しがっていると思いたいのだ。それはとても一途な想いだった。そうまで慕われれば、こちらにも情は湧く。長谷部のことは、嫌いじゃない。要は、性行為がなければいいのだ。怖いのはそれだけだった。愛情を伝える方法は、何もセックスだけではないはずなのだから。
 いくら交わっても、長谷部の剛直に慣れることはなかった。長谷部はどこから知識を得るのか驚くほど多彩な技術を披露して、私を意思とは関係なくぐずぐずの性狂いにさせることが上手かった。それでも、巨大な陰茎で刺し貫かれ、ごつごつと奥を穿たれるような衝撃を与えられると、それまでの快楽はどこへやら、私は痛みにのたうち回り、悲鳴を上げて泣き叫ぶ。いつまで経っても最初と同じように痛がる私を、長谷部も持て余しているようだった。どうすれば私が痛くなくなるかを真剣に考えているらしく、熱心な前戯と愛撫で体を解しに解されたり、いつもと違う体位で交わることを要求されたりすることがあった。けれど、意識をなくすほど感じてしまった時も、上から跨ってみても、後ろから貫かれてみても、やっぱり長谷部の陰茎が太いことに変わりはなく、あちこち新しい痛みと性感帯を開発されただけで、結局毎晩泣かされることに変わりはなかった。


   *** ***


 長谷部が大太刀になって数ヶ月経ったその日、彼はまた厚樫山に向かっていた。今度の隊列は太刀と大太刀で構成されて、錬度も申し分なく安定した戦果が期待できるはずだった。ところが、長谷部が率いる部隊は、目的の敵本陣にたどり着く前に帰還する羽目になった。隊長である長谷部が重傷を負ったことが原因だった。
「ここまで傷を追うのは、珍しいか」
 手入れ部屋に駆け込んだ私を、意識のあった長谷部は苦笑して出迎えた。横たわったまま、手当のされた体を見下ろすように視線を巡らせている。
「そうだな。体の違和感が酷かった。…今夜には、元に戻るかもしれんな」
 何にとは言わなくても、私には分かっていた。彼は本来、打刀なのだ。
「主」
 珍しく気だるそうに、長谷部が片腕を伸ばしてきた。
「…最後だ。いいか?」
 言外に抱かせろと言っているのだ。私に拒否権はないのに、長谷部はいつもこうして私の意思を確認する。私が自分から絶対に首を縦に振らないと知っているのに、何を考えているのだろう。当然のように首を横に振ると、彼は僅かに苦笑した。
「最後までそれか」
「……」
「まぁ、いい。拒むなら、いつもより酷くするぞ?」
「っ、いつも、より?」
「ああ。どうした。素直に俺を受け入れる気になったか?」
「い、いやっ」
「強情な奴だ。だが、逃がさんぞ」
 体を起こした長谷部が、太い腕を伸ばしてくる。簡単にその腕に捕まり、布団の中に引きずりこまれた。手慣れた様子の長谷部が、私の着物を脱がせていく。いつもより動きが緩慢なのは、怪我が痛むからだろうか。私の肌が露わになった途端、宣言通り長谷部は乱暴な愛撫を開始した。時折顔を顰めながらも、余裕のない様子で肌を舐め、口付けて、強く揉む。痣になるほど強く肌を摘ままれ、何度も悲鳴を上げさせられた。声を抑えようとする私が気に入らないのか、時々長谷部の指が口の中に突っ込まれた。
「んぐ…っ!」
「おい、我慢するな」
「あ…うっ」
 太い指が舌の表面を撫でて喉に向かう。舌の付け根のほうを強く押され、意図せず長谷部の指をしゃぶらされてしまう。涎が溢れそうになるのを必死に嚥下しようとして、更に長谷部の指を奥へ誘ってしまった。
「ぐっ、っはっ、ごほっ!」
 喉の奥を指先で刺激され、思わず涎を垂れ流しながら、激しく喘いでしまった。えずいて咽た私の口に、長谷部は更に指を押し込んだ。二本、三本と指が増やされ、ともすれば閉じようとする口を無理に押し広げて歯の裏側を撫でていく。二度目にえずいて涎を吐き出した私を、長谷部は漸く解放した。私が息を吸っている間に、長谷部が私の下穿きを脱がせる。糸を引いて愛液にぬめった場所が晒され、前戯もなく指が膣へ推し込まれた。
「あぁ…っ!」
 えずいた余韻も晴れないうちに、浅い場所を指の腹で撫でられて腰が浮く。そうして指を挿し入れたまま、長谷部は剥き出しの胸に吸い付いて舌先をころころと転がした。性急に刺激された全身が、熱の塊に変わっていく。これまでに散々気持ちのいいことを教え込まれた体は、少し触られただけで簡単に潤って、はしたない声が沢山喉を突いて出てきた。恥ずかしい。
「あっ、やだ…っ、長谷部っ、…っ!」
「気持ちがいいのだろう? 我慢しなくていい」
「んっ」
 長谷部にすべて暴かれていく。口では嫌だと言いながら、体は隠しようもなく感じてしまう。あますところなく、全身が昂ぶって、長谷部の良いように解されていくのが分かった。
「い、いや…っ、やだ…っ、はせべ…っ、したく、ない…っ」
 膣に突き入れられた指がどんどん奥に向かって、出し入れされる距離が長くなっていく。もう慣れた感覚。細い指は痛みもなく快楽だけを生み出して、私の意識を甘く溶かす。だめ。気持ちよく、なってしまう。
「…いつもそうだな」
 歯を食いしばって快感を散らそうとしていると、長谷部が静かに口を開いた。余裕のある表情で私の痴態を見下ろしながら、不満げに眉をひそめいる。
「俺に触れられて、そんなに蕩けた顔をするくせに、何が不満だ?」
「…なに、言って…」
「お前に拒まれるのは堪えると、そう言っているんだ」
「っあ…っ!? やっ、やめて…っ!」
「…人の話を聞いていたか? 素直になれ」
「あぁぁっ!」
 二本に増やした指で、激しくある一点を刺激される。尿意に似た感覚が下半身に広がり、我慢する間もなくそれは一気に弾けてしまった。ぴしゃっと激しく潮を噴いて、私は体を強張らせた。脳髄を焼くほどの快感。これが初めてではない。長谷部が意図的に私の体をこんな風にした。恥ずかしくて泣きなくなる。達した後の、気だるい体を、長谷部がぺろぺろと舐めていった。唇から顎、首、胸は少し執拗に、脇、お腹。飛び散った体液で濡れたお腹を他の場所より丁寧に舐めて、びしょびしょに濡れた秘部をこれでもかと大きく拡げて覗き込まれる。ひくひくと、中が蠢いている。刺激が欲しくて、物足りないのだ。けれど私は知っていた。次にもたらされる刺激が、決して甘美なものではないことを。
「ぁぐ…っ!」
「は、相変わらず、きついな…っ」
「や、あぁ…っ、痛、い…っ!」
 体を裂くほどの太い肉の塊が、遠慮なくずくずくと押し込まれる。それまで感じていた気持ちいい刺激なんて、体のどこにも残ってはいなかった。強張った膣口を押し広げるのは長谷部の熱。長谷部の雄。内壁を擦って、奥の硬い場所を突いて、何度も出し入れされるたび、体が揺さぶられる。気が遠くなる。痛い。
「…っ、あるじ…っ」
 ごちゅっと子宮の入り口を叩きながら、はぁはぁと荒い息の合間に長谷部が声をかけてきた。珍しい。いつもは私に構いもせず、自分勝手に気持ちよくなってるだけなのに。飛びそうになる意識を必死で長谷部に向けると、当の長谷部もなぜか苦し気な顔をしていた。
「んぁっ、っはっ、…っ!」
「俺、が、嫌いか…っ?」
「っ!?」
「俺が、嫌だから、拒むのか…っ?」
「っん…っ!!」
 痛い。窮屈な膣口だけでなく、長谷部が強く掴んでいる腕も痛い。骨が折れそうなほど強く掴まれている。だけど、なぜだか長谷部に縋りつかれているような気になった。手入れ布団に組み敷かれて、私の方がよっぽど長谷部に縋りつきたい状況なのに。だって長谷部が、あまりにも苦しそうな顔をするから。
「っ、きらいじゃ、…っな…ぃっ……っ、すき…っ」
「っ!」
「…っいたいの、が…っ、いや、なの…っ」
「っあるじ…っ」
 必死で息を吐こうとするのに、やっぱり長谷部のが大きくて痛くて苦しくて、思うように声が出ない。それに気づいたのか、長谷部がぴたりと腰の動きを止めてくれた。じんじんと疼く痛みはそのままだけど、体を揺さぶる動きが止まったらから少し気持ちに余裕ができた。見下ろしてくる長谷部に腕を伸ばす。柔らかい髪をくしゃりと撫でると、驚いた顔をされた。
「…それに、怖い。……初めてのとき、無理矢理だったから、余計に怖くて…。これ全部、長谷部のせいだからね…」
「…痛くなければ、怖くなくなるか?」
「う? どう、だろうね?」
 曖昧な私の答えが不満だったのか、長谷部は少しむっとした顔をして、ごちゅ、っと腰を大きく動かした。
「っあ…っ!?」
「それなら、俺にも勝機はある」
「っひ、待って、長谷部っ、待っ…あぁっ!?」
 調子を取り戻した長谷部が、再び腰を激しく前後させ始めた。痛いだけの衝撃で涙がこぼれる。
「あるじ…っ、最後、っだ、…っめいっぱい、奥を、突くぞ…っ!」
「や、待って、長谷部っ、いやっ、やだっ、やだぁっ…っ!」
「…ふっ…」
 それからは気の遠くなるような長い時間が続いた。長谷部は何度も何度も、いままでで一番長く私の中を掻き回し、擦って、抉って、何も、考えられなくなるまで蹂躙した。なまじ痛みに慣れているせいで気絶することもできない。その間ずっと、私は「嫌だ」を繰り返していたのに、長谷部の動きは止まることを知らなかった。好きだなんて、言うんじゃなかった。たぶんあれで調子づいたのだ。失敗した。
「っあるじ…っ」
「は…っ、あ…っ」
「あるじ、好きだ…っ」
「あぅ…っ」
「あるじ、あるじ…っ!」
 熱っぽく求められても、疲れ切った私にはうまく反応が出来ない。そろそろ限界。長谷部が宣言通りに奥を沢山突いたせいで、膣内全体が痛くて痛くてたまらない。開ききったまま固まった股関節も痛いから、だから。はやく出して終わって、長谷部。
「く…っ」
 願いが通じたのか、長谷部が奥で腰を震わせた。勢いよく子宮口を撫でる精液の熱を感じ、私もぴくぴくと腰を震わせる。大量の白濁が溢れてお尻に垂れていくのを感じたのが最後。私はようやく、意識を手放した。

   *

「…主。主」
「ん…」
 優しく呼ぶ声と、体を揺さぶる振動に瞼を押しあげる。見上げたそこには、心配そうにこちらを見下ろす人影があった。
「はせ、べ…?」
「ああ、よかった。大丈夫ですか? 酷い声ですね」
「…長谷部?」
 一瞬で意識が回復する。優しげな声と口調はまぎれもなく打刀のそれだ。覗き込んでくる男の顔を見上げ、私は目を見開いた。男が首を傾げると、音もなく柔らかそうな髪が揺れた。長くはないが、決して短くもない。真ん中で分かれているほかは、至極無造作な髪型。引き締まっているけれど、屈強とは言えない体躯。打刀の長谷部だ。私は思わず体を起こそうとして、出来なかった。
「っ!?」
「ああ、主。まだ起きないでください」
「っま、って、なに、これ…っ」
 そこはまだ手入れ部屋だった。夜は明けているのか、いないのか。だけど、私に跨る長谷部を見れば、傷はすべて癒えているようだった。そう、長谷部は私に、跨っている。
「なに、とは?」
「っ!?」
「ああ、主。気持ちいい、ですか?」
 ずる、っと体内を擦るものがある。長谷部が腰をひいて、奥まで突き入れられていた陰茎が入口のギリギリのところまで引き抜かれた。あとはもう、緩く引っかかった雁首だけが中にある状態だ。
「は…、痛くは、ないでしょう? すごい、ですね。主が起きた途端、急に中が締まって…」
「い、や…っ」
「嫌? 良い、の間違いでは?」
「っあん…っ」
「ほら、良い声が出る」
 ぱつん、と肌の当たる音とともに、今度はまた奥に入れられる。根元まで長谷部の陰茎が入りきって、ごりごりと擦れる恥丘の毛が絡んだ。長谷部は幾度か腰を前後させて、ぱちゅ、ぱちゅ、と中を擦っていく。起き抜けのまだ回らない頭が、じわじわと状況を把握する。大太刀の長谷部が、打刀に戻ったのだ。そして長谷部は、また私を犯している。
「あっ、…っやだ…っ、はせ…っ、最後、って、言ったのに…っ」
「大太刀の俺が、言ったこと、ですか? 最後でしたね、あの姿でまぐわうのは」
「っひぁ…っ」
 こりこりこりこり。奥を突いたまま、淫核を素早く捏ねられて体が跳ねる。同時に膣内がぎゅっと収縮して、長谷部が嬉しそうに口元を歪めた。
「ははっ、気持ちよさそうな顔だ…っ。思った通り、こっちの体だと、主に丁度いい大きさでしたね」
「いやっ…っ」
「そんな顔で言っても、説得力がありませんよ、主…っ」
 長谷部が腰を動かすと、ずるるるる、と膣壁を擦る感触が妙にくっきりと感じられた。痛みが、ないのだ。あんなに裂けるかと思ったほどの膣口の痛みが全く感じられず、ただ中を擦られる感触だけが体を覆う。指を出し入れされる時とも、あの剛直で貫かれた時とも異なり、ぴったりと内側に寄り添った陰茎が、ゆるゆると膣内を押し広げて挿入っていく。長谷部はおそらく乱暴に腰を動かしている。勢いよく抜き挿しが繰り返され、私は胸がぶるんぶるん揺れるほど激しく体を揺さぶられていたけれど、驚くくらい痛くなかった。それより、ずっと、気持ちいい。長谷部の雄も、決して細いわけではないのに、いままで散々大太刀の太さで拡げられた場所は、長谷部の大きさに誂えたように密着している。
「はっ、まって…っ、はせ…っ、ちょっと、休んで…っ」
「駄目です、あるじ…っ、きもち、よくて…っ、腰が、止まりませんっ」
「い…っ! や、やら…っ、さっき、から、っ…っずっと、イッてて…っっ」
 何度目か分からない。きゅんきゅん子宮が疼いて苦しい。長谷部は嬉しそうに私を押し潰して、とぷとぷ中に白濁を注ぐ。でもそれで終わりにならない。だってもう、何度もそうして中に出されている。
「あるじ、うつ伏せに、なりましょう」
「んっ」
 一度陰茎が抜かれると、中に溜まった精液がとろとろと溢れていくのが分かる。それに構わず、長谷部は私の体を反転させた。汗を吸って冷たい布団に顔を押し付ける。長谷部が私の上に寝そべり、お尻の肉を割って再び陰茎が突き入れられた。
 さっきまでとは違う感触にお腹の奥がぞくぞくする。背中側の内壁を、雁首の返しの部分がゴリゴリ擦っていくのが分かる。ああ、またイッてしまう。思う傍から膣が締まり、私は声もなく布団にしがみ付いて果てていた。どんなに息を吸っても酸素が薄く感じられて、頭がくらくらする。長く聞こえる呼吸の音が、自分のものなのか、長谷部のものなのか、もう判断もつかなった。分かることは、ただ一つだけ。長谷部がまだ満足していないということだけ。
「はせ…っ、も、…ゆるし、て…」
「まだですよ、あるじ。ねぇ、こっちを向いてください」
 無理矢理首をひねらされ、涎で濡れた唇を塞がれた。
「んっ、んぅ…っ」
「は…っ。主、大太刀の俺が、随分と酷い事をして、申し訳ありませんでした」
 長谷部が口を離したのを幸いに、ぱたりと布団へ頭を落とす。まだ長谷部と繋がったままで、いつ律動が始まるのかとびくびくしていた。長谷部はそんな私の汗で濡れた髪に手を伸ばし、幼子をあやすように頭を撫でてくる。
「沢山、痛くしてしまいましたからね。俺は、沢山、優しくして差し上げます」
「ま、まだ…?」
「ええ、まだまだ、頑張りますので」
 だって主は、俺のことがお好きなんでしょう?
 続けられた言葉に、私はやっぱり後悔した。へし切長谷部がどんな姿であれ、軽々しく「好き」などと言ってはいけないのだ。
「あ…っ」
 膣内を擦る動きを感じて、私は強く決意した。この苦行が終わったなら。審神者ネットワークに書き込みをしよう。今更かもしれないけれど。
 どんなにいじましく見えたのだとしても。
 へし切長谷部に甘い顔をしてはいけないのだ、と。