俺の眠り姫



 俺の主はよく眠る。昼日中に寝ているわけではない。夜の睡眠が素晴らしく良いのだ。短刀の次に床に入り、一度眠れば容易には目覚めない。戦績の良さはこの睡眠からきているのではないかと、俺などは考えている。逆に俺は眠りが浅い。遅くまで仕事を行っているせいで、いつも終い風呂になる。今夜も寝静まった廊下をひたひたと歩き、俺は主の部屋に向かった。眠る前に主の寝顔を眺めるのが俺の日課だ。…決して、主には言えないけれど。
 静かに襖を開けると、行儀よく布団に仰臥した主の寝姿が目に飛び込んでくる。行燈の火はまだ残っていて、暗い部屋をそれでも主の顔が見えるほどには照らしていた。月並みな表現だが、主は美しい。妙齢の女性にありがちな、媚びた姿勢は微塵も見せず、ただ潔く強くあろうとする姿が好ましいのだが、いまこうして眠る姿は、たおやかな一人の女人でしかなかった。
「…主。」
 ふ、と俺の吐き出す息に熱がこもる。ああ、今日は顔を見るだけにしようと、思っていたのに。
「主、今宵もよく、おやすみですね。」
 足裏に畳のひやりとした感触が伝わる。さりさり、音を立てて主のそばに寄ると、黒々とした影が壁に映った。まるで鬼だ。ふと笑いがこみ上げて、俺は口元を歪めながらその場にしゃがみ込んだ。人の形に盛り上がった布団をまくり上げ、寝間着姿の主を露わにする。寝相の良い主は寝乱れもせず、襟元は整ったままだった。細い首筋に手を伸ばし、俺は遠慮もなくその襟を寛げた。暗がりにも白い肌が浮かび上がる。胸元の膨らみまで露わにして、俺は一度だけ唇を湿した。ああ、何度見ても美しい。
 細く浮いた鎖骨を撫で、温かい胸の膨らみへと手を這わせる。柔らかく弾力のある乳房をそっと掴んで、ゆっくりと捏ねるように指で揉むと、ふわりとした感触が手の中で踊った。
「…あるじ…。」
 下半身がじんと熱くなる。俺は空いた手で浴衣の帯をほどき、下穿きを脱いで自身の雄を手の中に掴んだ。わずかに頭をもたげたそれを、手の中で何度も擦りあげる。遠慮のない速度でしごく度に、徐々に硬さを増した男根はふくふくと膨らみ、わずかな時間で先端に透明な液体が浮いた。
「あ、あ…、あるじ…っ、ん…っ。」
 竿を伝って流れ出した液体が、指に馴染んでくちくちと音が立ち始める。すでにそそり立った陰茎が、壁に滑稽な影絵を作った。俺が身をくねらせると、壁の影もゆらゆらと動く。くちくち。ゆらゆら。主の乳房を弄びながら、竿を握る手がどろどろになるまでひとしきり自分を慰めた俺は、持って来た手ぬぐいで濡れた手と竿をぬぐうと、きつく腫れあがった雄をそのままにして、浴衣の帯を結びなおした。邪魔になる裾を尻っぱしょりで帯の後ろに挟み込む。下穿きを履かない俺の股間で、濡れた陰茎がぶらぶらと揺れた。
「っ、ん、あるじ…、見て、ください…。こんなに太く、大きくなりましたよ…。」
 眠っている主に、見えるはずがないことを承知でそう囁く。規則正しい寝息を立てて、主は微動だにせず眠っている。晒された胸を強く揉んでも目覚めることはない。やはり、よく眠っている。ごくりと唾を飲み込んで、俺は主の体の上で大きく脚を開いた。主の顔を跨ぎ、その横に膝をつく。
「…っん、ある、じ…っ。」
 眠っている主の頬に、陰茎を擦りつける。幾分べたついたそれが、ぴたぴたと主の頬に吸い付き、離れて、また擦れる。股座を主の顔に押し付けるように腰を揺らして、顎や鼻先でいきり立った雄を擦っては、はしたない喘ぎ声をあげた。
「主の肌は、気持ちがいいですね…っ!」
 荒く忙しない自分の呼吸が部屋に満ちる。主の呼吸は落ち着いたままだ。もし目覚めていたのなら、俺の姿を見てなんと仰るだろうか。恐ろしくて想像もできないが、今の主は夢の中だ。俺が何をしようとも。
「んっ、んっ、あるじ…っ! これっ、気持ち、いいっ、です…っ!」
 ちゅ、ちゅ、と雄の先端を主の唇に押し当てる。薄く開いた隙間から吐息が漏れて、温かい息が濡れ始めた先端へかかり、腰が震えるほどぞくぞくする。何度も、繰り返し主の唇へ亀頭を触れさせ、その口が大きく開いて俺を飲み込んでくれないだろうかと、詮無い夢想に腰を振るった。口でしゃぶってほしい。下の口にも突き入れたい。どれほど気持ちいいだろうかと、考えずにいられないのは、この体のせいだ。主が俺にくださった、この肉体のせいなのだ。
 高まっていく興奮に、抑制がきかない。こうして一人、無防備な主を前にして過ごす夜に、もっともっとと強請りたくなる気持ちが膨れることはあった。それが今夜はいつにも増して強くなっている。
「…、あるじ、俺を、もっと、慰めてください…!」
 濡れてしまった主の口を、手ぬぐいのまだ乾いた部分で拭い、俺は思い切って主の体の下半分に跨った。夜着の帯を解き、頭からつま先までの裸身を晒す。下穿きひとつの主を見るのはこれが初めてで、思わずごくりと喉が鳴った。その下穿きにすら、手をかける。ずり下げた布地の中から、女陰を覆う繁みが覗いた。
 膝まで下穿きを下ろし、脚を閉じさせて横を向かせる。そうまでしても主は目覚めず、心地よさげに眠っていた。心臓は早鐘を打っている。わずかに持ち上がった罪悪感よりも欲情のほうが勝っているのは明白だった。俺は横向きになった主の背後に横たわり、閉じた足の付け根に陰茎を差し込んだ。先端に触れた尻の柔肉。ぞく、と腰が震えたのは、上向きの陰茎が、女陰に擦れたからだった。
「あ、…っうぁ…っ!」
 へこへこと腰を前後させると、閉じた脚と女陰に擦られて、膨れ上がった熱がぐつぐつ煮えたぎる。顔のそばには主の髪があり、その上に涎を垂らしそうになって、何度も何度も啜りあげた。後ろから延ばした腕で主の乳房を掴み、柔らかい膨らみを揉みながら繰り返し腰を擦りつける。
「は、あ…っ、きもち、い…! きもちいい、です…!」
 先走りに濡れた陰茎が、主の女陰や太腿を濡らしてくちゅくちゅと音を立て始めた。それにまた熱を煽られ、腰の動きが早くなる。
「はっ、はぁっ! ある、じ…っ! おれ…っ、もう…っ!」
 ぐちゅぐちゅと主の股で何度か激しく己をしごき、慌てて横に転がると、掴んだ手ぬぐいの中で幾度か強く陰茎を擦った。
「く…ん…っぅ…!」
 蕩けるような快感で目の裏側が痺れる。いつもより少し量の多い白濁を、零さないように手ぬぐいで押さえ、乱れた主の姿に目をやった。ああ、主の股座も拭わなければ。まだ荒い息の中で、俺はまた一つ、主に言えない秘密を増やした。


   * * *


「ああ〜、ごめん。今日はいいわ。」
 俺の差し出した湯呑を認めて、主はあああ〜と低い声を出した。ぽかんとした俺に気づいて、主が苦笑する。
「この間の健康診断で、カフェイン取りすぎだって怒られちゃって。ちゃんと寝れてるから大丈夫だと思うんだけどねぇ。控えなさいだって。せっかく入れてくれたのに、ごめんね。」
 なみなみと注がれたコーヒーを見下ろし、そうですか、としか言いようのない口が勝手に言葉を吐いている。これまで主に差し出したものを、拒まれたことなどなかったせいで、思った以上に意気消沈してしまう。
「申し訳ありません。勝手をいたしました。」
「いや、長谷部は悪くないよ。言うのを忘れていた私が悪い。ほんとにごめんね。それは長谷部が飲んでいいから。」
「いえ、俺は、コーヒーは、」
「…苦手なんだっけ、そうか。ごめん。」
 繰り返し謝る主に、慌てて首を振る。滅相もない。用意したものが悪かったのだ。代わりに、ほうじ茶でも入れてきましょうというと、よろしく頼むと言ってくださったから、俺は急いで厨へ引き返した。主専用に用意されたコーヒーは、いつも燭台切が買い求めてくる。特製ブレンドだそうだ。俺にはよく分からないが、主がいつも美味いと言って飲まれるので、多少、燭台切に嫉妬した。ただし、入れているのは俺だから、「美味い」の大半は俺の手柄だとも思っている。主には粉の入手方法について説明したことはなかった。誰が買ったものであろうと、入れているのはこの俺だ。
「あれ、長谷部くん。コーヒー持っていかなかったの?」
「主が、しばらくこれは飲まないと仰ってな。代わりにほうじ茶をご所望だ。入れなおして持っていく。」
「そうなの? そろそろ粉がなくなるころだったんだけど、追加の注文はやめた方がいいかなぁ。」
「あとで主に確認しておこう。」
「うん、よろしく頼むよ。」
 にっこりと笑う燭台切に頷き、丁寧に入れた茶と菓子を一つ盆に乗せて、俺は主の執務室に戻った。主は戻りが早い俺に目を丸くしたようだが、用意した菓子に破顔して召し上がってくださる。夕餉の後の菓子とは贅沢なことだと、殊の外喜んでくださって俺も嬉しかった。
「今日は目が冴えていらっしゃいますね。そろそろ休まれてはいかがです?」
「うん? ああ、もうこんな時間か。いつもこれくらいの時間には寝ちゃってるのにね。そうだなぁ、休もうかな。」
「では床の準備をいたしますね。」
「…長谷部。」
「はい?」
「…いや、なんでもない。」
「? 床の準備が整いましたら、お呼びしますね。少しお待ちください。」
「うん、ありがとう。」
 いつものように俺は主の部屋で床を整えた。今夜の主は前後不覚に眠ってはいないので、掛け布団をきちんと広げて主を呼びに戻る。自分の足で寝床に入った主を見届け、その日の仕事を片付けるために俺はまた執務室へ戻った。

 夜半である。終い風呂を終えて、俺は再び主の寝室へ。今夜は主が自分で消したのだろう。行燈の灯りは落ちて、部屋は驚くほどに暗い。けれど、夜戦で鍛えた俺の目には、大人しく布団に横たわる主の姿が見えていた。
「…主。」
 いつものようにひたりひたりと畳を踏んで主の枕元に膝をつく。今日もよく眠っていらっしゃる。そっと頬に手を添えると、ぴくりと瞼が震えた気がした。
「主?」
 呼びかけてみるが、震えはそれきりおさまり、また規則正しい寝息と、能面のように穏やかな表情が見えるばかり。頬から手を離して頭にやり、手触りのいい髪をゆっくりと撫でながら、俺は自分の唇を主のそれに重ねた。
「っう!」
 びくりと、主の体が大きく震えた。細い指が抗議するように強く俺の腕を掴む。驚いて目を開けると、至近距離で驚愕に見開かれた主の瞳が見えた。
「っ長谷部…っ!」
 身を離した俺に、叱責の声が飛ぶ。下から刺さるような主の強い視線が、俺を射抜いて動けなかった。
「お前だったのか、長谷部…っ!」
「あ、あるじ、」
「私に睡眠薬を盛っていたのは、お前だったんだな!」
 睡眠薬。なんだ、何のことだ。
「今日飲まなかったコーヒー。大方、あれに薬が盛られていたんだろう? …お前じゃないと、思っていたのに、とんだ見込み違いだったよ。」
「待ってください、主、何を仰って、」
 なんだ。これはどういうことだ。
 ぐるぐると頭をめぐる言葉がまとまらず、主のきつい視線に晒されて、俺は口ごもるしかない。睡眠薬? 主が近頃よく眠っていたのは、それのせいだと? コーヒーにその薬が入っていた? 違う。違うんです。それは俺じゃない。入れたのは、俺だ。けれど、用意したのは。
「ちが、違います、主! あのコーヒーは燭台切が、」
「この期に及んで、他人のせいにするのか。…おかしいと思っていたんだ。時々、やけに夜着が乱れていることがあったのも、朝から空気の入れ替えなどと言ってお前が窓を開け放っていたのも、全部こうして私にいたずらしたことの証なんだろう? …何をした、長谷部? 今まで私に何をしてきたんだ!」
 責めるような視線に、ゆるゆると首を横に振る。声など出ない。誤解だ。薬など。俺はコーヒーを入れただけで。違うんです。俺じゃない。俺はただ。
 言い訳を口にしようとして、俺は絶句した。脳裏に浮かぶ、白い首。細く浮いた硬い骨。肌の滑らかさ。柔らかさ。堪えようのない俺の劣情。眠りに誘ったのが俺でなくても、眠っている主に働いた狼藉の数々は言い訳のしようもない。それが俺の口を鈍らせ、おそらくは主の不審をさらに強めた。
「埒があかないな。歌仙を呼んでくる。お前はそこで待っていなさい。」
「…っ、主、待ってくださいっ!」
 このまま行かせてはいけない。そう思っただけだった。
「っ!」
「あ、主…。」
 掴んで引いた主の体は随分と軽く、簡単に寝床に引き倒されてうめき声をあげている。呆然とそれを見下ろした俺は、乱れた裾から白い腿が覗いていることに気付いてどきりとした。混乱した頭をゆるゆると横に振る。喘ぐような声が長谷部、と呻いた。起き上がろうと体を動かした主の腰元で裾が乱れ、脚の付け根までが露わになる。ぴったりと肌を覆った下穿きを目にした瞬間、脳裏で理性がぷつりと切れる音がした。
「っひ…っ!」
「んぐ、あむ、…っある、じ…!」
 裾を割り、白い太ももにむしゃぶりつく。主が身を固くした隙をついて、俺はさっさと主の帯を解いてしまった。合わせが広がり、いつかの夜のように白い肌が眼前に浮かぶ。暴れようとする細い体に圧し掛かると、もう主に身動きは取れない。怯えの映った瞳を無視して、乱暴にその口を塞いだ。
「んぅ、ん…っう…っ!」
「ん、はぁっ…っ、ある、じ…っ!」
 がつ、と歯が当たる衝撃があり、すぐに口の中に血の味が滲んだ。そんなことには構いもせず、主の乳房を掴む。
「や…っ、やめろ、長谷部…っ!」
 ちゅう、っと音を立てて主の首に吸い付く。もがく主をぎゅうと押しつぶし、俺の手が性急に主の体を這いまわっていく。胸の膨らみを捏ね、握り、先を摘まんで刺激を与える。聞いたことのないあられもない声が、主の喉からほとばしった。静かだった秘め事が、主の意識一つあるだけでこうも騒々しく、さらに俺の熱を煽るものになるとは。
「長谷部…っ、長谷部っ、やめろ…っ!」
「んっ、ふ…っ、俺が、あなたに、何をしてきたか、知りたいのでしょう…っ?」
「やぁ…っ!」
「あるじ…っ、んっ、ちゅぅっ…っ。」
「や…っ、むね、いやだ…っ吸わないで…っ! っん、ぁ、っあ…っ。」
 膨らんだ先端を舐めて、吸って、舌先でころころと転がせば、主の悲鳴が甘い喘ぎに変わった。襟の肌蹴た主の肩を片手で押さえ、両膝で脚を押さえて、空いた手を自身の熱に添える。ずらした下穿きから取り出した陰茎は、もうすでに硬く張り詰めて、緩く扱くだけで主の腹にぽたぽたと先走りを垂らした。ぐちゅぐちゅと、手の中で擦れた竿が音を立てる。
「主…、聞いて、聞いてください。ねぇ、聞こえ、ますか? いやらしい、音が、俺の魔羅から、んっ、聞こえるでしょう?」
 俺が笑うと、耳まで赤く染めた愛らしい顔を恐怖に歪ませ、主はいやいやをするように首を横に振った。いつもの、静かな寝顔ではないその表情に、俺はぐしゃりと顔を歪ませた。ああ、駄目だ。こんなことをしては駄目だ。蘇った理性が俺の動きを止めようとする。けれど同時に、もう一線は越えてしまったと、俺を唆す声も聞こえた。拮抗することもなく後者が勝り、俺は主を辱める言葉を口にした。
「恥ずかしいんですか、主? 夢の中で、毎晩聞いていたはずだ。俺が、こうしてあなたの上に跨って、何度も昂ぶるのを、本当に知らなかったんですか? え? 本当に?」
「はせ、べ…っ!」
「薬など、俺は、知りません。あなたがあんまり無防備だから、だから、俺は…っ!」
「ひ…っ、いや、…っ、長谷部…っ、やだっ、あっ…あ…っ、長谷部っ!」
「んっ、あっ、はぁっ、あるじ…っ、あるじっ。」
 まだ履いたままの主の下穿きに、膨れた竿を押し当てて腰を揺らす。濡れてぴったりと割れ目に張り付いた布が、柔らかく沈むように俺の魔羅をしごいていく。俺の先走りに濡れたわけではない。主自身の蜜で、濡れているのだ。
「はは…っ! 主も、濡れて、いますね…っ! ん…っ、きもち、いい、ですか…っ!」
「ひぅ…っ、きもち、良くなんか…っな、…っぅっあっ、やめ…ッ擦らないで…っ!」
 びくんびくんと肩が震える。汗の浮いた肌を舐め、ひくつく腹を撫でてやると、殊の外大きく主の体が跳ねた。言葉とは裏腹に、しとどに濡れた下穿きと、蕩け始めた表情が主も欲情していることを示している。体は正直だ。俺が夜毎触れていたことも、少しは影響しているのだろうか。
「あるじ…あるじ、もっと、気持ちよく、なりましょう…? ね? もう、薬のことなんて、どうでもいいでしょう?」
「ば、か…っ! …っひぃっ…っ、はしぇ、はせべ…っ! だめ…っ、そこ、触らないで…っ! やだ、やらぁ…っ! あっ、ひぅ…っ、んっ、んぅ…っ!」
 返答を待つまでもない。濡れて役に立たない下穿きを脱がせ、あらわになった繁みに指を這わせる。ほぐすように探ると、ぬるぬるとぬかるんだ女陰へすぐに指が行き当たった。ちゅくちゅく音を立てて割れ目に沿った肌を撫で、膨れた淫核を摘まみ、押し潰す。腹の皮膚を引き攣らせて主が腰を持ち上げた。快楽を求めて腰が揺れ、俺の手を欲しがってひくついている。求められるままに恥丘を手のひらで揉み、それに合わせて指を動かす。溢れてくる愛液で手のひらはすぐにぐっしょりと濡れてしまった。その手で俺の雄を掴み、また幾度か擦りあげる。
「あるじ、きもち、いいですね…? ね? ほら、俺の魔羅と、あるじのここが擦れて…っ、あぅッ…ん…っ、あるじ…っ!」
 直接割れ目に雄を添えて、竿の側面で秘肉を擦る。熱を持った性器が擦れるのは気が狂うほど気持ちよく、俺は意味のない喘ぎ声をあげながら、じゅくじゅくといやらしい音の立つその場所を何度も何度も魔羅でしごいた。
「ね? きもち、いい…っ! あるじっ、正直に、言って、ください…っ! ほら、ここ、擦れて、俺のに、吸い付いて…っ! ねぇ、どうですか、あるじ…っ!」
「んっ…っやら、これ…っ、音っ、はずかし…っ、はせ…ひぅっ! これ、もぉ…っ、おかしく、なっ…っあぅ…っ、いや…っ、やぁ…っ、きもち、い…っ! はせ…っ、はせべ…っ!」
「は、ッ…ん…っ、やっぱり、そう、ですよね…っ! あるじ…っ、俺と、ひとつになって、ください…っ! あ…っ、ほら、もう、ここが蕩けて…っ!」
 割れ目の奥の、ほぐれた場所に亀頭を押し当てる。卑猥な音とともにその場所を押し上げると、ひぐ、と主の喉がひしゃげた悲鳴に引き攣った。あああああ。きつい。きついきついきつい。きつい分だけ、気持ちいいっ!
「いっ…、あ…っ、はせ…っ、いた、っ痛い…っ!」
「ふぐ…っんっ、う…っ! あ…っ! あるじ…っ!」
 ぐぷぐぷと奥に押し進む。浮きそうになる主の腰を押え、秘肉を割って奥へ奥へと竿を突き入れようと腰を進めると、主の眦に涙が浮かんだ。ひぐ、あぐ、押しつぶしたような音だけが、主の喉から繰り返し聞こえ、強引に押し込んだ陰茎が押し出されそうになる。俺も主もそれぞれが口から涎を垂らして喘いでいた。俺は快楽に。主は痛みに。ごちゅ、ごちゅ、腰を揺らすと、繋がった場所が濡れた音を立てた。
「はぁ…っ、あ、きもち、い…っ! あるじ、っあるじ…!」
「あ…っ、いや、ああっ、いたい…っ、いたいぃ…っ!」
 ひぃひぃと喉を鳴らして主が泣いている。それでも俺の腰は止まらず、肌をぶつけて、腰を揺らして、抉るように主の内側を蹂躙する。ごつんと最奥に肉棒が押し当たり、押し上げるようにしてそのまま腰を押し付けた。
「ひぃ…ッ!」
「んぁっ…っある、じ…っ!」
 ぎつ、と強く膣内が締まり、俺の意識が持っていかれる。ぞろりと這い上がった射精感を飲み込む間もなく、腰は震えて主の中に精を吐き出してしまった。あ、あ、と意味をなさない声をあげながら、主は幾度か腹を痙攣させて俺の精を搾り取った。
 ――とうとうやってしまった。
 ――主の中に、俺の子種を。
 まだ繋がったままのその場所を見下ろし、俺は肩で息をしながら主の様子を窺った。俺と同じく荒い息を吐く主は、呆然と見開いた目で天井を見上げている。何か。何か言わなければ。
「…主、俺は、薬など、盛っていません。」
 ぴく、と主の指が震えた。
「俺じゃない…。あのコーヒーは、燭台切が用意しました。」
 主の目が、俺を見る。絶望に染まった、昏い目の色に、俺はぞく、と背筋が震えるのを感じた。感情の見えない目で俺を見ながら、主が掠れた声を出す。
「…どうして、光忠が私に薬を盛るんだ…。」
「それは…、…分かりません。」
「はっ! 分からない? お前が、私に悪戯をするために仕込んだんじゃないのか!」
「…違い、ます。…結果的にそうなったのだとしても、俺は、」
「…っうるさい。さっさと、どけ。」
 冷え切った声にそう言われ、俺はカッとなって主の上に圧し掛かった。
「長谷部!」
「…主、俺はまだ、いけますよ…?」
「ひ…っ、やめろ、離し…っ!」
「ん…っ、んくっ、ちゅぅ…っ。」
 主の胎の中で、また俺が熱く膨らんでいく。ゆらゆらと腰を動かしながら、主の口腔をねぶり、上顎を舐め、歯列に舌を這わせて身に収まらぬ熱の行き場を探した。
「ふぐ…っ、う…っ、うう…っ!」
 乾ききらない頬を濡らしながら、主が俺を振りほどこうとする。驚くほど弱い力だ。これが人か。それとも、主が女だからか? 腰の動きを次第に大きなものにしながら、剥き出しの肌を撫でまわすと、逃れられないと悟ったのか、本格的に主が泣き始めた。偉そうなのは口ばかりで、こんなにも俺の主は弱かったのか。いたいやめろと繰り返す声は子どものようだった。けれど俺は動きを止めない。膨れ上がっていく熱は、どこにも行き場などないから。あなたが受け止めてくれなければ、この熱は、ただ俺の中に溜まるばかりで。
「大丈夫、大丈夫ですよ、ね…っん、あるじ…っ、すぐに慣れます…っ、俺と、慣らしましょう…っ? ほら、ここは、気持ちいいでしょう? ね? あるじ?」
 ぷっくりと膨れた淫核を撫でると、ひぅ、と主の喉が鳴った。ほら、大丈夫ですよ。気持ちよくなります。ね。あるじ。あるじ。あるじ。
 言い聞かせるように声をかけながら、愛撫を繰り返す。主の泣き声は、聞きようによっては喘ぎ声にも聞こえ、俺の熱を煽っていく。ぐちゅぐちゅと音を立てる秘部から、先ほど吐き出した精が押し出されて溢れていった。気持ちよさに喘ぎながらふと顔を上げると、部屋の襖が僅かに開いていた。隣の部屋も真っ暗だったが、そこに異質なものを見つけて俺は大きく目を見開く。
 金の目が、そこにあった。高い位置から見下ろすそれに、俺たちの痴態が見えているとは思えない。
 ――燭台切。
 細く開いた襖の隙間で、ぺろりと奴が唇を舐めた。