ゆくとし、くるとし



 部屋のドアを開けると、テレビから除夜の鐘が聞こえた。まだ国民的年末番組から切り替わったばかりのようで、デジタルの時計表示は二十三時四十六分を指していた。広くはないリビングの隅に寄せられたソファの上で、最愛の妻は眠っている。へし切長谷部――否、長谷部国重は、健やかな寝息をたてる妻の姿に一瞬動きを止めると、すぐに踵を返して廊下へ取って返した。ほどなく戻ってきた長谷部は、無防備に眠る妻へ手にした毛布を広げてかけてやる。なるべくそっと、起こさないように。先ほどまで大掃除と正月料理に忙しく働いていたのだ、少しくらいは休ませてやらねばならない。
 毛布を掛け終えた長谷部は、部屋のドアを閉めてキッチンへと向かった。一人分のコーヒーを入れてリビングに戻る。テレビの画面は山肌に張り付いた長い石段を高い位置から映し出し、着膨れした人々が社を目指して寒そうに足を進める姿を捉えていた。繰り返し、除夜の鐘が鳴る。
 長谷部はコーヒーのカップをローテーブルに置くと、妻を起こさないようにゆっくりとソファの片端に腰かけた。硬いソファは長身の長谷部が体重をかけてもそれほど沈まない。そのまま、長谷部は少しずつ腰の位置を移して、妻のほうへ体を移動させた。妻が被った毛布の端に、脚が触れる。さらに近づく。毛布の下の妻の体に、ぴたりと長谷部の太腿が触れた。
 触れた場所がじわじわと温かくなるような錯覚を感じる。すっぽりと毛布に包まれて、なんとも無防備な寝顔だ。もう少しすれば、妻がことのほか楽しみにしていたテレビ番組が始まる。それまでに起こすべきか、録画されているはずだからこのまま休ませておくべきか、長谷部は珍しく逡巡しながらコーヒーを啜った。
 籍を入れてからまだ三月足らず。新婚の日々は幸せに満ちていたが、仕事に忙しい長谷部はあまり休みが取れず、取れても妻の休みと合わず、ばたばたしているうちにもう年末になってしまった。夫婦の営みも数えるほどしか行えていない。入籍前のほうが、と指を折りそうになってやめにした。ばかばかしい。彼女は今、長谷部の隣にいるというのに。
 半分ほど減ったコーヒーをテーブルに戻して、長谷部はまた妻の寝顔を眺めた。長いまつげ、整った鼻梁。ずっと恋をしていた。生まれる前から。生まれた後も。あなたを見つけられずにいた間も、ずっと。けれど出会ってしまってからのほうが酷かった。それまでの想いが嘘だったわけでない。かつて本丸で共に生活したときのように、些細な言葉や行動に振り回されて、どうしようもなく骨抜きになった。もう長谷部は刀剣ではない。妻も、審神者ではないのだ。一人の人として、一人の男として、どんどん惹かれていく。理由など考えたこともなかった。笑う時の癖のある声の出し方も、拗ねたときの唇の尖りも、怒って怒鳴り散らすときの余裕のなさも、何もかもが愛しい。愛している。
「…。」
 こうしてじっくりとそばにいる時間が取れなかったから、妻の寝顔を眺めているだけで満足だと思っていたが、どうも違うらしい。わずかに重くなった下半身に苦笑して、長谷部はそっと身を乗り出した。起こさないよう注意しながら、妻の唇にかすめるようなキスを落とす。今夜はこれまで。明日も明後日も休みなのだ。妻が起きているときに、もう少し先を楽しめたらいい。いや、きっと楽しもう。
「ん…。」
 唇を離しただけの至近距離で妻の寝息を聞いていると、何を感じ取ったのか、うっすらと妻の瞼が開いた。離れるタイミングを完全に逃した長谷部は、ただそれを見ていることしかできない。
「…う、ん?」
 ぼんやりとしていた妻の視線が、次第に焦点を結んでいく。幾度か瞬きを繰り返し、かけられた毛布と、覆いかぶさる長谷部を見比べて、きれいな声がおはよう、と言った。内心冷汗を垂らしながら、長谷部もそれに答えて言う。
「…おは、よう。」
「何してるの?」
「いや、これは、」
「…寝込みを襲おうとした?」
「ち、違うっ。」
「国重さん。」
「!」
 あっという間だった。毛布から伸びた妻の腕が、首に回ったと思ったらぎゅっと抱きしめられた。重力に従って落ちる長谷部の顔の下には、妻の顔。再び触れた唇は、積極的にこじ開けられ、熱い舌が絡んだ。
「ん…ぅ…っ、」
「ふ…っ。」
 どちらのものともしれない唾液を、妻が飲み込んでいく。こくりこくりと何度も嚥下する喉に触れると、くすぐったそうに首をすくめて、ようやく唇が離れた。わずかにあがった息が、長谷部の顎に当たる。
「…どうしたんだ…。」
「…お風呂、入ってくるから。そしたら、久しぶりにしよう?」
「っ!」
「ね、待ってて。」
 わずかに顔を赤く染めながら、妻はそう言って、もう一度長谷部の口に自分のそれを重ねた。触れるだけの優しいキスだ。同じように顔を赤くしながら、長谷部はちらりとテレビの時間を確認する。不満などない。むしろ嬉しい。だが、ずっと前から妻はテレビを楽しみにしていたのではなかったか。
「…生さだ、見るんじゃなかったのか。」
「…録画してあるよ。」
 知っている。だが、リアルタイムに見るのとそうでないのとで、楽しさが変わるのも知っている。それでも妻は長谷部を選んで、いそいそと風呂に入る支度をすべく、長谷部の下からもがき出ようとしていた。その姿がいじらしい。愛しい。愛しい。
「待て。」
 毛布の上から、細い体を押さえつけて動きを止める。驚いている相手に構わず、今度は自分から唇を求めた。
「んぅっ!」
「は…っ、ぅ、ふ…っ。」
 耳に触れると、ぴくりと体が跳ねた。熱い首。鎖骨。順になぞっていくと途中から毛布に行き当たった。毛布の上から体のラインを撫でる。胸の膨らみ、脇腹、腰。尻の下に手を入れて体を持ち上げ、座っていた体勢から、ソファへ完全に横たわらせた。外れた唇の隙間から、焦ったような妻の声が聞こえた。
「っ、は、国重さん…っ、待って…っ!」
「駄目だ、待てない。」
 妻の体に跨り、触れた太ももに、ぐい、と股間を押し付ける。毛布越しでも確かに分かるほど、長谷部の雄が膨れていることを感じて、妻が絶句した。
「…分かるだろう? もう待てない。」
「あ、やだ…! お風呂…っ!」
「風呂場でするか?」
「そうじゃなくて…っ、ひぁっ! や、やだ、汚いって…!」
「大丈夫だ、気にしない。」
「私は気にするのに…!」
 抗議の声を無視して、邪魔な毛布を除けると妻をどんどん脱がせていく。随分と着込んでいたようで、脱がせた服がソファの脇で小山を作った。自分の寝間着もその上に脱ぎ捨て、下着だけの妻の上に覆いかぶさるようにすると、また抗議の声があがった。
「ま、待って待って! ここで、するの?」
「ここじゃだめなのか。待てないって、言っただろう。」
「だって…ソファ、汚れちゃう。国重さん、いつもベッドのシーツ汚してるの、分かってる? ちゃんと毎回洗濯してるんだから。」
 こころなしか恨めしそうに言われて、長谷部はぐっと言葉に詰まった。否定はできない。
「…汚れなければいいんだろう。」
 長谷部は妻を一旦抱き上げると、片手で毛布を引っ張ってソファ全体に広げ、その上に妻を下ろした。ふわふわとした長い毛足に触れて、くすぐったそうに妻が身を縮める。今度こそ長谷部は、その上に覆いかぶさって口を塞いだ。剥き出しの寒そうな肩を押え、膝を立てた妻の脚に股間を擦り付ける。高まっていく熱が、行き場をなくしてどんどん下半身が重くなる。今夜は我慢が効かない夜になりそうだった。
 キスを繰り返しながら、ブラジャーのホックを外す。浮いた下着の中に手を突っ込み、両手で捏ねるように乳房を揉むと、合わさった唇の奥でくぐもった声が聞こえた。口を離して顎や首筋を舐めながら、両胸の先端を摘まむ。甘い鳴き声が繰り返し耳に届いてくる。可愛い。愛しい。もっとその声を聴かせてほしい。
「あっ、やだ…っ、国重さん…っ、胸ばっかり…っあ、もぉ…っ!」
 執拗に胸を弄っていると、その刺激に焦れたのか、妻の手が長谷部の股間を撫でるように触れた。びくりと情けないほどに反応して腰を引く。その様子をおかしそうに見ながら、妻は長谷部の股間を撫で続けていた。
「国重、さん。」
 ねだるような声が言う。
「私も、気持ちよくしてあげたいから、こっち、きて?」
 誘われるままに、半身を起こした妻に向かいあって膝立ちになる。長谷部がソファの背もたれを掴むと同時に、妻が長谷部の下着をずり下げた。膝まで下げられた下着から、陰茎が飛び出して天井を突くように頭をもたげた。我ながら随分元気な有様だ。
「ん…国重さんの、すごい。」
 竿に妻の手がかかる。触れられた瞬間にまたびくんと体が反応したのは、熱っぽい妻の視線に、欲情の波が掻き回されたからだ。ごくりと唾を飲み込んで、長谷部は妻の髪を撫でた。
 ゆっくりと、妻が竿を扱いていく。張り詰めたそれは更に硬さを増して、扱かれるたびに長谷部の息は荒くなっていった。熱心な妻の視線に晒されているというだけで、先走りが溢れてくる。とろとろと溢れた透明な液体が妻の指を濡らし、恥ずかしい音が立つようになった。くちくち、くちゅくちゅ、繰り返し音を立てながら竿を扱かれる。腰を突き出して快感を得ている長谷部に気をよくしたのか、妻はあろうことか竿の先端に舌を這わせた。
「ん…っ!」
 気持ちいい。そう思ったのが顔に出たらしい。妻は嬉しそうにちゅうちゅう、と音を立てて先端に吸い付き、そのまま大きく開いた口に亀頭を含んでしまった。熱く絡みつくような舌で、雁首をねっとりと舐められる。
「うぁっ!」
「んぐ、んむ、くにひげ、ひゃん。」
「く、咥えた、ままで…っ、喋るな…っ!」
 余裕のない声しか出せない。濡れた咥内で、舌に裏筋をねぶられ、ぶるりと腰が震えてしまう。ちゅ、ちゅう、ぢゅっ。音を立てて竿をしゃぶりながら、先走りに濡れた妻の手が、玉袋を揉むように刺激してきて息を飲んだ。出させる気か…!
「おい、いい加減に…!」
「ん、ん〜っ。」
「くそ…っ、離し…っ!」
 腰を引こうとしたところで、それまでよりよほど深く妻が竿を飲み込んだ。強く吸い上げられ、舌にしゃぶられて我慢が出来なくなる。
「くぁ…ッ!」
 まずいと思った時には、妻は既に咽ていた。どろりとした白濁が口からこぼれ、毛布に染みを作っていく。
「おい、大丈夫か…!」
「ごほっ…っは、はぁっ、くにしげ、さん…、」
「なんだ!」
「きもち、よかった…?」
「っ!」
「あはは、顔、真っ赤…っうわぁっ!」
 無理矢理妻を引き倒し、その上に馬乗りになる。長谷部は汚れて萎えた自身を妻の腹に押し付けるようにして掴むと、自らぐちぐちと擦りあげて緩やかに硬度を回復させていった。荒い息のまま、もう一方の手で妻の胸を揉む。
「…どこで、こんなことを覚えてきたんだ。」
「どこ、って、ん…っ、や…っ!」
「随分と、煽るのが上手くなったな?」
「ん、ふ…っ国重、さ…っ。」
「どうした。」
「あ、やだ…っさっきから、胸ばっかり…! ん…ッ、もっと…、」
「もっと、なんだ? 別のところを触って欲しいのか?」
「っ、今日は、なんだか、いじわる、だね…!」
「お前は、積極的だな。…溜まってたのか?」
「んぁ…っ! 国重さ…っあ、…っ!」
 体を倒して、妻の胸をしゃぶる。じゅくじゅく音を立てて擦る竿はもう十分に硬さを取り戻して、長谷部は汚れた手で妻の脚を撫でた。付け根から内腿に手を這わせるだけで、期待するように臍の下がひくひくと震えているのが分かる。
 テレビの画面がニュースに変わった。薄暗かった画面が一変して白いスタジオに変わり、はきはきとした声のアナウンサーが日付と時間を教えてくれた。あけましておでとうございます、というアナウンサーの一声に、長谷部は顔を上げて、欲情に染まった妻の顔を見下ろした。
「そういえば言ってなかった。明けましておめでとう。」
「そういうの、今はいいからっ! はやく、触って…!」
「どこに、だ?」
「国重さんっ!」
「ははっ!」
 声にだして笑うと、長谷部は妻の下着をゆっくりと脱がせた。視線の先で、てらてらと光る繁みが雌の匂いを放っている。下着を放り投げ、その場所に指を這わせると、ぬる、とぬかるんだ感触がして指が沈んだ。
「んっ、あぁっ…っ!」
 大きく身を捩って喘ぎながら、妻はみっともなく腰を突き上げて長谷部の指を飲み込もうとする。それを躱すように、長谷部の指は入り口の襞を撫でるように擦り、溢れ出た蜜を指先に絡めていく。
「あっ…っやだ…っ、意地悪しないで…っ!」
「名前、また呼んでくれ。」
「んっ、え、またぁ…?」
「だめか?」
「呼んだら、もっと、ちゃんと触ってくれる…?」
「ああ、いくらでも。」
「…っ、んっ、じゃあ、ちゃんと、気持ちよくして………、『長谷部』…っ。」
「…はい、主の仰せのままに。」
 名前を呼び捨てられた瞬間、長谷部はうっとりと微笑んだ。同時に、妻の中に指を挿し入れる。ぐち、とぬかるんだ感触の中、一本だけの指はすんなりと奥へもぐっていく。後を追うようにもう一本を挿し込み、内側をゆるく擦りながら、熟れた淫豆を優しく捏ねた。
「んあぁ…っ、そこ…っ、きもちいい…!」
 もっと触って。長谷部。長谷部。甘い声に名前を呼ばれて、指が従順に刺激を繰り返す。腰を揺らし、自ら快感を得ようとする妻の淫蕩な姿に長谷部も息を荒くしていった。時折、びくりと体を強張らせているのは、軽く達しているのだろう。溢れてくる愛液に、手のひらがどんどんと濡れていく。
「ふ…っ、主は、俺の手が、本当にお好きなようですね。」
「あっ、あ…っ、長谷部…っ、やめないで…っ!」
「やめませんよ。ほら、主。気持ちがいいなら、ちゃんと言って。どこがいいですか? 俺に教えてください。」
 妻の秘部をくちくちと掻き回しながら、長谷部はうっとりとその頬に鼻を摺り寄せた。前世の記憶があるのは長谷部だけで、妻には一体何のプレイかと訝しがられたこの遊びが、結局ふたりの夜をより濃密なものにしているのは滑稽でもあった。だが、昔と同じように名を呼ばれるだけで、長谷部の熱は一気に高まる。従順な家臣の仮面を綺麗にかぶって、その裏で嗜虐心に満ちた行為を夢想する高揚。今は、この快感に溺れるだけだ。
「あぅ…っ、長谷部の、指がぁ、触ってるとこ…っ、一番、気持ちイイよぉ…!」
「んっ、ここ、ですか?」
「ああああ…っ、そこっ、そこ、好き…っ! もっと、奥にきてっ! 中でイキたいッ、イキたいからぁ…っ!」
 限界まで突き入れた指の先が、いい場所を掠めているらしい。奥へと言われても、もうこれ以上指を入れることはできない。すでに手のひらで下腹部を持ち上げるほどに強く押し上げている。今が限度だ。
「主、俺の指では、届きません。」
「ん…っ、やだ、…他のもの、使ってっ! 奥まで、突いて…っ! お願い…っ、長谷部、長谷部…っ!」
 どれだけ溜まっていたのだろう。これほど乱れた妻を今までに見たことはない。何を言っているのか、分かっているのだろうか。妻はただ与えられる刺激の物足りなさに長谷部へ懇願を繰り返す。指を飲み込んだ秘部から愛液がとめどなく溢れて毛布をしとどに濡らしていく。白い尻が誘うように揺れて、そのたびに愛液の絡んだ指がくちくちと音を立てた。
「ああ、主。他のものと仰っても、下手なものを主の中に挿れるわけには…。」
「やだ…っ、挿れて…っ! 国重さんの、っおちんちんなら、届くから…っ!」
 ちょうだい。お願い。上擦った声が、もう長谷部の名前を呼ぶことも忘れて、恥ずかしげもなく雄を強請る。長谷部の愛を、長谷部の熱を、余すところなく欲しがって叫ぶ。なんて強欲なことだろう。普段は貞淑そうな顔をして、俺の妻はこれほど淫乱だったのかと、長谷部の口が愉悦に歪んだ。
「お望みとあらば、いくらでも!」
 妻の中から指を引き抜く。興奮した勢いのまま、妻の膝裏に手をかけると、両脚を大きく開いて女陰を眼前に晒した。片脚はソファの背もたれに掛けるように、もう片方の脚は片手で掴んで押し広げ、僅かに浮いた尻へ陰茎を添わせていく。尻の割れ目も愛液に濡れて、長谷部の竿は頼りなくぬるついた感触にぴくぴくと小刻みに震えていた。
「国重さん…っ。」
 期待に満ちた声で促され、長谷部は可笑しそうに笑った。
「随分と、物欲しそうな声が出るな。」
「ん、…っだって、最近ずっと、できてなかったから…っ!」
「それにしても乱れ過ぎだ。…こんな姿、俺以外には見せるんじゃないぞ。」
「…っん…っ、他の人に見せたりなんか、しな…っあッ…ッくにしげ、さ…っ!」
 太い竿が襞に触れる。強く擦るように押し付けた竿で、陰核を、襞を、すべて覆うようにぐちぐちと刺激してやる。妻の喉が歓喜に震えた。赤黒く膨れ上がった陰茎が、ぴくぴくと別の生き物のように痙攣をおこしている。長谷部自身、裏筋が擦れる快感に、荒い息を押し殺すことができなくなった。眉間に皺を寄せて快楽をやり過ごし、ふーふーと鼻息荒く濁った空気を吸い込み、吐き出す。
「はぁ…っ、ん、はぁっ、挿れる、ぞ…っ。」
「あぅっ、…っん…っ!」
 ぐぷ、と沼から気泡の上がるような音を立てて、膨れた亀頭が妻の中に押し入っていく。体重をかけて挿し込んだそれは、きつい入り口に締め上げられて途端に泣きそうになった。ああ。ああ、気持ちいい。
「ふ…っ、く…っ。」
 唾を飲んで更に奥へと突き入れる。妻は待ち焦がれた雄の侵入に喉をのけぞらせて陶酔し、はくはくと空気を求める唇から赤い舌がちらちらと覗いた。まずは突き当たりまで。先端が押し当たる場所まで腰を進め、これ以上入らないと判断した場所で詰めていた息を大きく吐き出した。あぶれた竿の付け根が膣口からはみ出して、僅かな物足りなさが腹に溜まる。ぎゅっと妻の体を抱くと、忙しなく上下する柔らかな胸が、長谷部の胸板にぴったりと触れた。
「くに、しげさ…っ!」
「…動いて、大丈夫か?」
 こくこくと頷く妻の髪を撫でる。荒い息を啄むように音を立てて唇を触れ合わせ、ゆっくりと腰を引いた。抜けきらない限界まで竿を引いて、またゆっくりと奥へ突き込む。指で乱暴に掻き回した時とはうって変わって、焦れったい刺激に神経が研ぎ澄まされる。内側を探るように大きく腰を前後させ、少しずつその速度を速めていく。耐えきれない情動が、腹の内側を徐々に熱く痺れさせていった。次第に我慢ができなくなって。長谷部は上体を起こすと妻の腰を乱暴に掴んだ。
「っあ、あっ、…っんぁ…っ!」
 全身を揺さぶる律動に、妻の胸が揺れる。それを両手で撫でるように掴んで、長谷部はさらに腰を打ち付ける速度を速めた。
「ひぅ…っ! あっ、くにしげさ…っ、くにしげさん…っ!」
「っ、ふ…っ、」
「あっ、あぅっ、うっ、うぅっ…っ!」
 速度を上げるにつれて、抽挿が短くなる。擦るというより、揺さぶるような動きで腰を打ち付け、荒々しく中を掻き回した。肌がぶつかる音と、妻の短い喘ぎ声。重なって耳に届くそれが、長谷部の熱をさらに高める。ぐっと最奥まで突き上げ、そのまま更に奥へ突き入れるように腰を揺すって、妻の子宮口をごつごつと刺激した。
「い…っ、くにひげ、ひゃ…っ!」
 呂律の回らない声で俺を呼んで、妻がぎゅっと毛布を握った。途端、膣がきゅうっと収縮し、長谷部の精を搾り取ろうとする。まだ出すわけにはいかない。ぐっと奥歯を噛んで尻に力を込め、駆け抜けた快感をやり過ごす。余裕が戻った後に、二度、三度と最奥を突き上げた。
「っ…っ、っ!」
 もう喘ぎ声も上げられないほどの状態で、妻の体がびくびくと震えた。数秒感覚で膣が強く締まり、妻が何度もオーガズムに達したことを教えてくれる。全身を硬くして痙攣する妻の体を抱き締め、強く閉じられた唇から、溢れそうな唾液を啜った。
「――。」
 妻の名前を呼ぶと、蕩けきった視線がこちらを向く。交わったままでそうして肌を寄せ合い、妻の熱が散っていくのを待ってやる。毛布を掴んでいた手がおずおずと長谷部の首に回り、抱き締めあうようになってようやく唇を離した。
「…っん、国重さ、」
「…まだいけるな?」
「うん…。っあ…っ!」
 ずる、と妻の中から昂ぶりを引き抜く。愛液を引きずって抜けた竿は強くそそり立ったままだ。妻を抱き起こし、ソファの背もたれを抱くようにして座らせる。その腹を抱えて、背面から再び陰茎を挿し入れた。
 くぷ、くぷ、と小さく音が聞こえる。下がりそうになる妻の腹を抱え、後ろからぱつぱつと腰を押し当てながら、空いた手で胸を揉みしだく。熱い体は抱き締めると強い芳香がして、甘い匂いに思わず腰の動きが速くなった。
「んっ、んぅっ、国重、さん…っ!」
「はぁっ、ん…っ、ちゅぅっ、…っは、好き…っ、すきだ…っ!」
 首筋に吸い付き、熱い息を吹きかけて肌を舐める。じゅくじゅくと掻き回した膣内がまたきゅっと締まった。もっと締めてくれ。もっと強く。もっと。腹に宛てていた手を下ろして、繋がった場所の縁を撫でる。びく、と妻が腰を震わせ、ソファの背もたれに顔をうずめて、唸りながら首を横に振っていた。無防備に晒された陰核を捏ねるように弄り、妻を快楽の高みに押し上げていく。好き。好きだ。繰り返し耳元で囁けば、そのたびに膣が収縮する。ぎゅっと閉じた膣の狭さが、長谷部の意識をふわりと空へ持ち上げた。
「ひぅっ、うっ、わたし、も…っ、好き…っ!」
「んっ、…っんっ!」
「国重、さ…っ、もぉ…っ!」
 突き入れたまま、腰をグラインドさせて中で円を描く。妻の手が震えながらソファを離れ、陰核を弄る長谷部の手に触れた。ぎゅっと縋るように手首を掴まれる。熱くなった手のひらが、恋しいと長谷部に訴えているように感じた。急に胸が苦しくなった。乱暴にその手を振り払い、逆に長谷部が握りなおす。甲を覆うように掴んだ手へ指を絡め、ぎゅっと強く握りながら腰を奥へと打ち付けた。背に覆いかぶさり、妻の体を抱き締めて押しつぶす。
「あぁ…っ!」
「く…っ!」
 ぶる、と腰が震える。ぐ、ぐ、と強く押し上げた子宮口に向かって、膨れ上がった熱を吐き出した。這い上がる熱が腰を震わせ、どうしようもない快感で脚が震える。腹をひくひくと痙攣させて、妻もまた達したようだった。精を搾り取るように膣がうねり、つられて長谷部の腰も震えた。
「は…っ、はぁっ、はぁ、」
 ソファに突っ伏した妻に覆いかぶさって、荒い息を吐く。萎えた陰茎を引き抜くと、とろりと白い体液が妻の股座を汚して垂れた。久しぶりだったからか、おそらく普段より多めに出たなと、頭の隅でぼんやりと考える。達した後の脱力した体は重く、妻を抱き締めたままで、長谷部はごろりとソファに転がった。体の上に乗るように、力なく妻がもたれかかってくる。まだ熱い肌を腕に抱えて、長谷部は何度もその肩に唇を落とした。ちゅ、ちゅ、と音を立てて肌を吸ってみても、妻の反応がない。その頃になって初めて、長谷部は幾分乱暴だったかと今日の行為を思い返し始めた。ぐったりとした妻の体は重く、瞬きを繰り返していなければ気を失っているのかと思うほどだった。
「…大丈夫か?」
 自分でも驚くほど気づかわしげな声が出た。返答はない。責めたてたのは長谷部自身だが、こうも弱々しく振る舞われると、心配になる。肩を撫で、腕を撫で、妻が落ち着くように体中をさすっていると、ふふ、とわずかに妻が笑った。
「…おい。」
「…ふふふ、国重さん、可笑しい。」
「笑うな。」
「だって。」
 ころりと体を反転させて、妻が長谷部を覗きこんだ。汗ばんだ頬に髪を張り付かせ、まだ赤い頬が色っぽい。すり、と体を摺り寄せて抱きついてくる。
「今日は意地悪だったね。」
「…すまん。」
「ちょっと痛かったし。」
「…っ、すまん。」
 ふふ、とまた妻は笑い、首を伸ばして長谷部の唇を舐めた。
「…でも気持ちよかった…。」
「…。」
「さっきはちゃんと言わなくてごめんなさい。…明けまして、おめでとう。今年も一年、よろしくお願いします。」
「…ああ、こちらこそ。」
 ぎゅっとしがみついてくる体を抱き締める。一年などと言わずにずっと。ずっと、これからもそばにいて欲しい。そんな考えが頭をよぎったけれど、口に出すことは出来なかった。言葉の代わりに、妻を抱く腕に力を込めて、長谷部国重は深く息を吐くのだった。